書影『賃金とは何か』『賃金とは何か』(朝日新書)
濱口桂一郎 著

 むしろ「労務構成のちょうちん型あるいは傘型への移行と相まって、企業の人件費が増加する大きな原因となっている」にもかかわらず、「定昇の完全実施を当然のこととして、別枠で大幅なベースアップが行なわれてきた」ために、「企業の支払能力はその限界にきてしまっている」と訴えているのです。

 つまり、「問題の所在が大幅賃上げだけにとどまらず、賃金構造そのもののなかにもあること」が明らかであり、従って「この際企業内における賃金構造を根本的に再検討し、昇給制度を再編成し賃金決定における企業の主体性をとりもどす必要がある」と危機感をあらわにしています。

 そういう観点で先の図1、図2を見直してみると、ベースアップが急激に縮小し、ほぼ消滅に至った後も、定期昇給率はほぼ2%のまま堅持され続けていることの意味も違って見えてきます。ベースアップがなくなって定期昇給だけになったからといって、企業の人件費負担が増加していないわけではないのです。