一方、昔からの熱心なファンが存在する日本では、その変化はあまりに唐突に映る。これまで軽量ハンドリングマシンのエリーゼをメインに販売してきたディーラーとそれを購入してきたユーザーにとって、高価なフル電動モデルであることはもちろん、そもそもロータスとSUVのイメージがつながらない。
4ドアサルーンにしても同じことである。だが、ロータスにとって、高性能4ドアは、昔からの悲願だった。創業者、コーリン・チャップマンには4ドアのアイデアがあったという。ノーフォークに新工場ができた頃というから1970年代の前半か。メルセデス450SEL6.9に幹部たちを乗せて“車内会議”をしながら飛ばしていたという。そういう使い方ができるクルマをコーリンは求めていた。
1980年代はじめ、4ドアロータスの夢が天才デザイナー、元ピニンファリーナのパオロ・マルティンに託された。マルティンは代表作にフェラーリ・モデューロやランチア・ベータモンテカルロなどがある。そんなパオロが描いた4ドアロータスが“2000エミネンス”だった。残念ながらこのプロジェクトは経営不振とコーリンの死去によりお蔵入りに。その後1990年代にオペル・ベースの高性能セダン、ロータス・オメガが登場しBMW・M5やメルセデスベンツE500の好敵手となった。だが、それはロータス・オリジナルではなかった。
コーリンが果たせなかった夢を電動ハイパーGTとして実現したクルマ、それがエメヤだ。コーリンの長男クライヴはエメヤに試乗し、「父が生きていたらとても誇りに思っただろう」と語ったと聞く。
エメヤは3グレード構成。
Rはじゃじゃ馬。ベストバイはSになる
メカニズムは基本的にエレトレと共通だが、背の低いプロポーションと独自の機能性を実現するために、バッテリーセルは形状を変えた。さすがは2028年までにフル電動ラグジュアリーブランドを目指すだけのことはある。バッテリーは性能を決定する要素だ。カテゴリーが変わればバッテリーを替える。その手法は正統派と感じる。
グレード構成はエレトレと同じ。スタンダードのエメヤ(450kW/710Nm)、パワースペックは同じで装備を充実させたエメヤS、高性能モーターとアクティブダンピングシステムを備えたエメヤR(675kW/985Nm)の3タイプ。ユーザーの6割がSを選ぶ、とマーケティング担当者は語る。床下の800Vリチウムイオンバッテリーのキャパシティは102kWhで3グレード共通だ。試乗会にはSとRが用意されていた。いずれもイメージカラーのソラーイエローである。
ミュンヘンでは主に速度無制限のアウトバーンを、オーストリアに入ってからはカントリーロードから本格的な山岳路、街乗りまで両グレードで堪能した。その結論、完成度が高くお勧めできると判断したのはSのほうだった。