小池都知事の公約とも合致する通勤船
韓国・尹大統領と呉ソウル市長も注力

 鉄道やバスに次ぐ第3の通勤手段をつくる通勤船の試みは、まだ定着しそうにない。しかし、このプロジェクトには真の目的がある。防災体制の維持・強化だ。

 1923(大正12)年の関東大震災では、現在の中央・江東・港区辺りからの避難や物資輸送で、小型船が重要な役割を果たした。湾岸部が副都心、マンション街として変貌を遂げた今も、都では大規模災害の対策に30カ所以上の防災船着き場を維持し、運河で船を航行できる水路を確保している。

 しかし当然ながら、設備の維持や水路の確認には莫大な予算がかかる。ここに民間の船会社を誘致できれば、毎日の運航が水路の確認にもなる上に、民間は運航による利益を、都は船着き場の使用料を得られる。

 なかでも通勤船は、小池百合子都知事の公約「満員電車ゼロ」の一環として、通勤手段の多様化とも合致し、都として取り組む理由も十分だ。一方、船会社にとって通勤船のメリットは、昼間のみの運航で朝晩には用途がない遊覧船を活用できるし、何より都から補助を受け取れる。

 こうした背景を知ると、運航の継続には一定の意義がありそうだと納得できる。とはいえ、もとより需要がないのは容易に想像できることであり、民間側が補助を受けられる最低限の運航スケジュールしか設定しないのは、致し方ないところだ。

 ただ、船の通勤活用は、双方の港が完全に市街地化しているとか、陸路移動が遠回り、あるいは大渋滞といった地勢条件があれば成立する。例えば、広島県尾道市の市営渡船(JR尾道駅前に発着)や、海外ならタイ・バンコクの「チャオプラヤ・エクスプレス」は多くの人々に利用されている。また、韓国では尹錫悦大統領と呉世勲ソウル市長の肝いりで、「漢江リバーバス」という15分間隔で運航し急行も設定する航路の開業を準備しているところだ。

 東京でそこまで船を活用できる局面があるかは疑問だが、先に述べた通り、防災の観点からは有益だろう。都は補助金の期間を3年間と定めている(都の都市整備局によると令和5~令和7年度)。限られた間に、通勤船は知名度を上げて定期利用者を増やせるだろうか。