米国鉄鋼大手USスチール買収をめぐり、日本製鉄と米国の利害関係者との駆け引きが続いており、連日メディアをにぎわせている。だが日鉄の海外戦略は北米にとどまらない。日鉄は、中国メーカーとの合弁解消や韓国鉄鋼大手の保有株式売却など、相次いで手を打っているのだ。一見無関係に思えるこれらの事象は、実は全て同一直線上にある。日の丸製造業の“巨人”たる日鉄の世界戦略を解明し、その「誤算と勝算」を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
USスチール「2兆円買収」成立に暗雲
“巨人”の快進撃は止まるのか
米国鉄鋼大手USスチール買収をめぐる日本製鉄と米国の利害関係者との攻防が、ますます熱を帯びてきている。USスチールの経営陣は買収に賛同しており、株主総会でも承認を取り付けているものの、全米鉄鋼労働組合(USW)が買収に反対しているためだ。
さらに、大統領選を間近に控え、共和党・民主党両陣営から買収反対を示唆する発言が出たことも波紋を広げた。
買収金額は日本円で2兆円にも上るが、USスチールを傘下に収めれば、日鉄は粗鋼生産量で世界3位に躍り出ることができる(この買収劇の経緯については、特集『進撃の日本製鉄』の#2『日本製鉄の“USスチール2兆円買収”により日本勢が鉄鋼業界で復権?「グローバル1億トン戦略」の勝算』参照)。
日鉄の海外戦略は北米にとどまらない。今年7月には中国宝山鋼鉄との合弁解消で合意、9月には韓国ポスコホールディングス(HD)の全株式売却を発表している。
一見無関係に思える米国、中国、韓国の事象は、実は全て同一直線上にある。日鉄のグローバル戦略を貫く一つの“軸”があるのだ。米国を代表する鉄鋼メーカーの買収、東アジアの鉄鋼大手との関係の“清算”…。日鉄がその先に見据えるのは、いったいどんな姿だろうか。
果たして、USスチール買収は成功するのか。次ページでは、日の丸製造業の“巨人”たる日鉄の世界戦略を振り返りながら、その「誤算と勝算」を明らかにする。