日本国債の専門家が「国の借金とGDPの比較」に“意義を見だせない”ワケ、財政の健全性を測る最適な指標とは?野村資本市場研究所 齋藤 通雄 研究理事
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 国債の利払い費や防衛費の増加を見込み、2025年度の財務省への概算要求は一般会計で117兆6,059億円に上り、過去最大となった。このように歳出への要求額が膨張し続ける一方で、これまで財源確保に向けた議論は深まらず、抜本的な解決が図られないまま先送りされている。今回は、財務省で国債管理政策に従事し「ミスターJGB(日本国債)」とも称された、野村資本市場研究所の齋藤通雄研究理事に、財政運営の在り方や国債管理の今後について話を聞いた。(編集部)

財政運営の在り方を変えた小手先の措置

――近年、政府は防衛力強化や子育て支援などの重点政策を打ち出す際に財源論を棚上げにしたまま、政策を先行的に推し進める傾向が強まっています。こうした国家財政の運営の在り方についてどのように評価していますか

 国家財政運営は「入るを量りて出ずるを制す」が基本といわれている。しかし、かなり前から、その基本がおろそかになっている。そもそも「入るを量り」ができていないのだ。

 例えば、2025年度の予算案は例年どおりなら24年12月に作成されるが、それに先立ち、予算案の前提となる25年度の経済見通しと、それに基づく歳入(税収)予測を行う必要がある。しかし、この作業には多くの不確定要素がつきまとう。それが顕著なのは法人税だ。3月決算企業の場合、25年度の法人税額が確定するのは26年3月で、納付期限は同5月末になる。つまり、納付期限から約1年半も前の24年12月の時点で25年度の法人税額を予想しなければならないことになる。

――なぜ、約1年半も先の法人税額を見積もるような予算編成プロセスになっているのですか

 日本の会計年度は、4月1日から翌年3月31日までである。しかし、納税額の確定と実際の国庫への納付には時間的にずれが生じる。そのため、翌会計年度の一定期間に納付された税金の一部は、前会計年度内の税収と見なす仕組みにしている。

 1977年度までは、当該会計年度の税収算入期間を4月1日から翌年度の4月30日としていた。しかし、翌78年度は、円高等による景気悪化で税収が低迷する一方で景気回復のための財政措置を講じることとなった。それを国債の増発に頼らずに乗り切るため、会計年度の税収算入期間の期末を翌年の4月30日から5月31日へ1ヵ月延長した。国内企業の多くが3月を決算月としているため、3月決算企業の法人税納付期限である5月にはまとまった税収が見込まれる。結果として、78年度の国家財政は大量の赤字国債を発行することなく乗り切ることができた。

 しかし、税収算入期間を1ヵ月延長するような小手先の措置の代償として、法人税収の見積もりがより難しくなった。かつては12月に翌年度の予算編成を行う際、半年後の5月に納付される法人税額を見積もればよかったが、78年度以降は、翌年度予算編成の1年半後の法人税額を見通して予算を編成しなければいけなくなった。