お話を聞かせていただくならなおさらです。それは同情ではありません。私も、こうした取材では、「かわいそう」「気の毒だ」という気持ちから解き放たれるように努めています。それは相手と自分を分ける感情だからです。

 ところで、怒りには、背後に別の感情が隠れているそうです。これを2次感情というのですが、怒りが生じるまでに、悲しみ、恐怖や苦しみ、後悔、不安、孤独などの1次感情が蓄積していきます。また、「こうあってほしい」「こうあるべき」というその人の理想の形が裏切られたという感情も潜んでいるのだそうです。

 つまり、怒りは単独で突発的に起きる感情ではないのです。

 とすると、もし、何かつらい出来事に遭遇した人に話しかけて、相手が急に怒り出したとしたら、あなたがきっかけであったかもしれませんが、あなただけに怒りの感情を持っているわけではないと考えてみる。

 その背後にあるたくさんの複雑な感情の積み重なりを想像するだけで、安易に「わかる」という言葉が使えないことに納得するのです。