東大との共同研究に
今なら無料で参加し導入できる

山本 このマッチングアルゴリズムを使った新入社員配属制度を、より多くの企業で導入する試みを新たに展開されていますね。

小島 JST(科学技術振興機構)より採択されたERATOのプロジェクトです。

 ERATOは、以前は自然科学だけが対象とされていたのですが、近年、社会科学まで広げようという流れになり、私たちが社会科学領域として初めて選ばれました。科学の力を社会に実装するためのプロジェクトができたという画期的な事例としての自負があります。

 ERATOは大きな予算をもち、今回のプロジェクトは社会科学としては類のない規模になっています。

 私たちのプロジェクトでは、企業と自治体の新入社員を配属する際に、従来通り手作業でやっていく方法と、私たちが提唱しているマッチングアルゴリズムを使って配属を決定していく方法を比べて、効果差を測っています。

山本 このプロジェクトに参画する企業や自治体を今、募集されているのですね。

小島 実証研究ですので、参加企業は多いほど良くて、20社くらいまでは募集していく予定です。

 マッチングアルゴリズムを使っての配属は、前述のシスメックスやブリヂストンで導入して成果を得ていますが、この仕組みをより科学的なものにするには、より多くのエビデンスが必要であるため、ERATOでのプロジェクトを実施しているのです。

 すでに成功例がある制度設計を確かめる段階の研究なので、企業や自治体の皆様は心配することなく、私たちに気軽にお声掛けいただければ、と思っています。

 ERATOの補助をいただいているため、企業や自治体は私たちの配属効果検証プロジェクトについては無料で参画できます。

山本 私はテクノロジーの進化と企業経営の関係について社会に発信していますが、このプロジェクトはその典型例ですね。経営者に馴染んだ表現を使えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)。経済理論とコンピュータサイエンスを活用して、より良い経営に変革していくというものです。

東京大学がマッチング理論で、企業や自治体の制度設計を支援【小島武仁・東京大学大学院教授&山本康正・京都大学大学院客員教授 対談<前編>】山本康正(やまもと・やすまさ)
京都大学経営管理大学院客員教授。ベンチャー投資家。東京大学で修士号取得後、NYの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得し、グーグルに入社。フィンテックやAI(人工知能)などで日本企業のデジタル活用を推進し、テクノロジーの知見を身につける。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム「US-Japan Leadership Program」諮問機関委員。日本経済新聞電子版でコラムを連載。『シリコンバレーのVCは何を見ているのか』(東洋経済新報社)、『世界最高峰の研究者たちが予測する未来』(SBクリエイティブ)、『アフターChatGPT』(PHP研究所)、『テックジャイアントと地政学』(日本経済新聞出版)など著書多数。

小島 確かに、時流に合ったプロジェクトと言えるかと思います。

山本 UTMDのメンバーの一人であり、小島さんの指導教官であったスタンフォード大学教授のアルヴィン・ロスさんがこの分野の理論で2012年にノーベル経済学賞を受賞されてから10年以上経ち、その間、道具としてのコンピュータがAIなどで急発展して、今、理論がアルゴリズムとして社会に実装されて、人々の役に立っている。このプロジェクトは、この流れの先端にあるわけですね。

小島 そのように評価していただけるのは、とても有り難いことです。マッチングアルゴリズムは長い歴史の中で鍛えられてきて、今日ようやく本格的に、社会に実装されるタイミングを迎えていると思います。

 テクノロジーと経営の両方に精通する山本さんが、多くの書籍や講演などを通じてわかりやすく解説して、一般社会との間の壁を取り払う啓蒙活動を長く続けてきたお陰だと思っています。

 ただ、それでもまだ、経営者がアルゴリズムと聞くと、どう使えば良いのか、どう対処していいのか分からない面はあると思います。そう感じたら、私たちのホームページを見ていただき、気軽に相談して欲しいと思います。

 私は、大げさな言い方をすれば、人生をかけてこの分野の研究をしていて、理論で新しい発見ができることはとても嬉しいのですが、同時に、研究成果を皆に使ってもらい、社会の役に立つことは望外な喜びです。このことがUTMDのセンター長を務める大きなモチベーションになっています。

 アルゴリズムは理論を実装するための手段であり、実装した結果の社会からのフィードバックを受けて、さらにアルゴリズム自体が発展します。

 企業や自治体との共同研究が大切なのです。ただ、あえて少しカリカチュア的に言うと、ある時点までは、手作業でやっていたことをコンピュータを使うことで工程が短縮されてコストが下がることが強調されてきました。

 これに対して、今進めているのは、新たなアルゴリズムを使うことで、参加者の希望をうまく集約して、より良いアウトカム(成果)を出すという段階です。

 望ましいアウトカムは何なのか。その実現のためにはどのようなアルゴリズムを設計すべきかについて、センターのメンバーは考えています。

 この点は経済学、具体的にはマッチング理論が強いところです。また、実際に目標とするアウトカムを得られるようにコンピューテーショナルに実装する部分では、コンピュータサイエンスが強い。両者の融合が最近とても面白くなっている。実際に使えるところに来ているということです。センターには両者の人材が揃っています。

山本 新入社員の配属に活用するために参加したいと企業が考えた場合、実際どういう手続きになるのですか。

小島 研究に入る前の事務手続きは、当センターだけでは対応しきれないので、DST(Data for Social Transformation)という一般社団法人に協力してもらっています。私も発起人の一人ですが、企業関係者や学者が協働しています。エビデンスベースで、研究とその成果の社会実装を進めていく団体です。

 DSTが、ご連絡をいただいた企業や自治体との窓口になって、私どものセンターに繋ぐという流れになっています。前述した実装後、追跡調査アンケートを実施していただくことなども担ってもらっています。

山本 いつ始められたんですか。

小島 2022年半ば頃から準備に入りまして、昨年2023年に第一弾として実装を始めています。すでに参加されている企業は、今年2024年4月の新入社員から順次、私たちが開発したアルゴリズムで配属しています。

 今から参加される企業や自治体は、早ければ来年2025年4月の配属からプロジェクトに参画することができます。仕様は固まっていて、このプロジェクトを今年すでに実装していますので、契約が済めばその後の作業はスムーズなのです。