カリスマ経営者は勇敢でチャレンジ精神に富み、果敢にリスクを取ることも厭わない――。そんな理解はあまりに一面的だ。経営の神様・稲盛和夫氏も、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも「極度のビビり」だったとされる。「小心者」を笑う人間は、100%仕事ができない。その理由を解説しよう。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「私はビビり」自認した稲盛
「私はもともと大変に怖がりな性格で、俗っぽく言えば“びびり“です」
筆者のインタビューにそう打ち明けたのは、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏である。生前、日本航空を復活させ、経営を軌道に乗せることに成功した2013年の話。インタビューの模様は、雑誌プレジデント(2013年3月18日号)に掲載されている。
稲盛氏は慎重のうえにも慎重を重ねるタイプの経営者である。
以前、ダイヤモンド・オンラインの連載《「経営の神様・稲盛和夫が『20円の栗を値切り倒して結局買わなかった』理由」》でも紹介したが、中国出張の際に、彼が露店で売られていた1袋20〜30円程度の焼き栗を「もっと安くならないか」と執拗に値切り倒したエピソードがある。しかも、結局は買うことをやめたという。こうした姿勢は、稲盛氏の経営哲学を象徴するものだといえる。
20円の栗にまで慎重さを求めた稲盛氏だが、その慎重さは彼が創業した京セラの経営にも如実に表れている。具体的には、京セラは創業以来一貫して黒字経営を続けており、2024年3月末時点では総資産が4兆4000億円、自己資本比率が72.24%と、非常に堅牢な財務基盤を誇る企業である。
強固な経営基盤は、稲盛氏の「びびり」とも言える性格が反映された結果とも言えるだろう。彼はリスクが曖昧で浮ついた投資を一切行わないという、徹底した慎重さをもって経営を行っていた。
「びびり」が単なる恐れから来るものではないことは、稲盛氏が提唱した「京セラフィロソフィー」に表れている。彼はこう述べている。