「プライベートな話」で盛り上がっても信頼感にはつながらない

安達 あとは、そもそもプライベートな話が職場に必要なのかという問題もありますね。

坂井 個人的には、要らないと考えています。というのも、あくまで会社は営利目的の組織なので、利益や顧客価値の最大化といった目標の達成に資する「互いに協力できる関係」が築けていれば、それで十分だからです。

 育児のように「働き方」に大きく関わる事柄については、必要に応じてフォローした方がいいかもしれないですが、プライベートな事情をわざわざ根掘り葉掘りする必要は全くありません。

安達 「プライベートな話で盛り上がる→距離が近くなる→信頼してもらえる」という図式で考えている人が多いかもしれないですね。

坂井 そこですよね。じつは、最新の論文を読むと、プライベートな話で打ち解けているかどうかと、上司に対する信頼度との関連性は低いことがわかってきています。

 それよりも、顧客に対して誠実な対応をしているか、自分の仕事ぶりを見てくれているかといった「仕事上のふるまい」が、上司への信頼感の基礎になります。

安達 確かに、私が新人だった頃、飲みの席で積極的にプライベートの話をする先輩がいましたが、それによって信頼感が増すことはありませんでした。

 坂井さんのおっしゃる通り、仕事を丁寧に教えてくれたり、プロジェクトを成功に導いたりといった「本業での魅力」の方がよっぽど信頼感につながりましたね。

 また、「コミュニケーション」でうまく立ち回ることで、信頼を得る方法もあります。たとえば『頭のいい人が話す前に考えていること』では、会話中に何かを言いたくなったとき、それを口に出す前に「その発言は相手のためになるか」という視点で、客観的に考えることが大事だと書きました。

 そうすると、相手に対して知識を披露したいだけ、ただ意見を言いたいだけの「承認欲求を満たしたがっている自分」に気づくことが多々あります。これは、ビジネスシーンだけでなく、プライベートでも同様です。

 SNSを見ればわかりますが、人間は多かれ少なかれ承認欲求に突き動かされて生きています。そんななかで、自分の承認欲求を抑えて、むしろ相手の承認欲求を満たすコミュニケーションができれば、信頼を勝ち取って長期的な関係につなげられると思いますよ

(本稿は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏の対談記事です)

安達裕哉(あだち・ゆうや)
Books&Apps運営、企業コンサルティング
Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に、2024年上半期・2023年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(日販/トーハン調べ)となった『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)など。
坂井風太(さかい・ふうた)

1991年生まれ、2015年DeNAに新卒入社。DeNAトラベル(現エアトリ)配属後、16年にゲーム事業部、17年に小説投稿サービス『エブリスタ』に異動。サービス責任者、組織マネジメント等を担当。19年にエブリスタ並びにDEF STUDIO取締役に就任。20年にエブリスタ代表取締役社長、経営改革とM&Aなどの業務を経験。22年8月、人材育成・組織強化をサポートする株式会社Momentorを設立。