もちろんイマーシブビデオの黎明期にあたる現在は、視聴する側もあまり飛躍したカメラワークが含まれると、いわゆるVR酔いを生じたり、新規性のある演出に違和感を覚えたりする可能性もあるため、あえて漸進的な、つまり少しずつ変化に慣れさせる進化に留めた可能性もある。また、すべての映像作品がイマーシブに適しているわけではなく、無理にそうする必要もないが、巨匠と呼ばれる監督も、新進気鋭のクリエーターも、少なくとも一度はイマーシブビデオが持つ可能性に挑戦して、その成果を披露していってもらいたいものだと思う。

メタバースから遠ざかるMETAの「Orion」

 ところで、出荷台数でApple Vision Proを上回るのが、MetaのVRゴーグル「Quest」シリーズである。Metaは9月25日、メガネ型情報デバイス「Orion」を発表した。同社では「Meta初のARグラス」としており、数年後の一般向け発売を目指している。

 本来はメタバースの時代が来るとして、社名までMETAにしてしまった同社だが、現実にはほとんどがVRゲーム目的で使われている。一方で、「Orion」は(電子的にではなく)光学的に透過して見える現実の風景に、テキストやCGをオーバーレイ表示するARグラスであり、メタバースとは距離を置くデバイスだ。

 光学的に見える風景に対して正確なオーバーレイ表示を行うのは、電子的なパススルー映像に対してよりも格段に位置決めが難しいため、そこに投入された技術の高さは大いに評価できる。ただし、METAも認めているように、現時点ではまだ解像感が不足し、コストも非常に高くつくため、すぐには製品化に至らず、少数を限られたデベロッパーに提供して、アプリやサービス開発の可能性を探ってもらうことに重点を置いている。

 演算部をワイヤレスユニットとして分離することで、表示部のフォームファクタや重量を一般的なメガネに近づけているが、オーバーレイしたアイテムは必ず半透過表示となることからイマーシブコンテンツの表示には向いていないため、自ずと用途はQuestシリーズやApple Vision Proとは異なるものになるだろう。

現状では開発用のプロトタイプだが、METAの「Orion」は、「Compute Puck」と呼ばれる演算ユニットを分離して表示部とワイヤレスで情報のやり取りを行うことにより、一般的なメガネに近いフォームファクタを実現している現状では開発用のプロトタイプだが、METAの「Orion」は、「Compute Puck」と呼ばれる演算ユニットを分離して表示部とワイヤレスで情報のやり取りを行うことにより、一般的なメガネに近いフォームファクタを実現している
「Orion」のAR表示は、パススルー映像ではなく実際の風景にコンピュータ映像がオーバーレイされるが、機構上、必ず半透過イメージとなる「Orion」のAR表示は、パススルー映像ではなく実際の風景にコンピュータ映像がオーバーレイされるが、機構上、必ず半透過イメージとなる
たとえば「Orion」をかけて目の前の食材を見ると、それぞれにラベルが付き、それらを使って作れるメニューのレシピが表示されるなどの応用例が紹介されたたとえば「Orion」をかけて目の前の食材を見ると、それぞれにラベルが付き、それらを使って作れるメニューのレシピが表示されるなどの応用例が紹介された