つまり、本物としか思えない艦内はすべて精緻なセットとして作られ、シーンによっては、それを丸ごと水に沈めて撮影が行われていたのだ。過去にもそれなりに精巧な艦内を再現した潜水艦の映画はあったが、特定の画角で切り取ったり、レンズのフォーカスから外れる部分をある程度省略できる一般的な2D/3D作品とは、まるでクオリティが異なる。それは、視聴者が注視している部分の解像感が高まるApple Vision Proの特性に合わせて、元の映像では近景から遠景までほぼフォーカスが合い、すべての要素が明瞭に写っていることが必要だからだった。

撮影にはAppleイマーシブビデオの撮影に特化したBlackmagic URSA Cine Immersiveという業務用カメラシステムが用いられた撮影にはAppleイマーシブビデオの撮影に特化したBlackmagic URSA Cine Immersiveという業務用カメラシステムが用いられた

 撮影中の映像チェックも、通常の大型モニタを裸眼で見るだけでは実際の視聴時の画像にはならないため、エドワード・バーガー監督はもちろん、撮影監督やその他のスタッフも必要に応じてApple Vision Proを装着し、どこかに不備が生じていないかを確認する。メイキング映像には、APBを着けた監督が首を振りながらチェックしている様子も写っていた。

エドワード・バーガー自身はもちろん、撮影スタッフも、現場でApple Vision Proを装着して映像チェックなどを行なった。これは「西部戦線異常なし」にも参加した撮影監督のジェームズ・フレンドエドワード・バーガー自身はもちろん、撮影スタッフも、現場でApple Vision Proを装着して映像チェックなどを行なった。これは「西部戦線異常なし」にも参加した撮影監督のジェームズ・フレンド
映像チェックには、Apple Vision Pro以外にも180度魚眼レンズを通した円形ビデオを直接、そして一般的な画角に変換して映す大型モニタも併用された。後ろ姿がエドワード・バーガー監督映像チェックには、Apple Vision Pro以外にも180度魚眼レンズを通した円形ビデオを直接、そして一般的な画角に変換して映す大型モニタも併用された。後ろ姿がエドワード・バーガー監督

これまでの「映画の撮り方」が通用しない!イマーシブ映像ならではの苦悩

 ハイビジョンテレビが登場したとき、番組制作に関わるメイクや美術のスタッフは、それまで以上に入念な化粧やかつら合わせ、大道具・小道具を揃えないと画質に見合うクオリティが得られないことに気づいたという。しかし、デュアル8Kの180度3D映像制作では、それ以上の苦悩が待っていた。

 たとえば、一般的な映画撮影では、動きのあるシーンで画角に入らない位置にレールを敷いてカメラを移動させながら撮ったりする。また、演出意図に応じて被写体に最適な陰影が生じるように照明をセッテングしたり、クリアに音が収録できるようにマイクを配置する。ところが、180度とはいえ、カメラ前方の光景がすべて記録されてしまうイマーシブビデオでは、基本的に死角がないため、そのような立て込みができないのである。