そこで「沈没へのカウントダウン」では、Blackmagicのカメラを長いアームの先に取り付けて、セットの手前から奥まで差し込むように撮影したり、セット内の照明が撮影用のライティングにもなるように工夫したり、球状の無指向性マイクを巧みに隠したりして収録が行われた。特にApple Vision Proでは、音も空間オーディオとして再生されるため、後処理で調整するとしても、マイクの位置決めには苦労したようだ。
さらには前述の通り、セット自体も手を抜けない。そこで、通常はハリボテで済ませるようなところまで金属を用いるなどして、可能な限りの本物感が作り出された。
映像作品としての課題
この17分間の作品に、どれだけの予算が注ぎ込まれたのかは定かではないが、とんでもない金額だっただろうことは想像に難くない。舞台を潜水艦の内部中心にしたのも、その予算の大半をセットのリアリティ構築のために費やすことができ、スペースを限定することでイマーシブ撮影に伴う困難を少しでも軽減しようとした意図が見て取れる。エドワード・バーガー監督にとっても、これが初のイマーシブ作品ということで手堅くまとめた感がある。
その意味では、ビジュアル的に強烈な印象を残す一方で、映像作品としては、まだ演出的な課題がないわけではない。というのは、まだイマーシブビデオの文法が確立していないこともあり、また監督自身の出自もあって、既存の映画的な演出が目立つところもあるからだ。また、極端なアップの肩越しに向こうを見るようなカットも目立ったが、これは遠近感が際立ちすぎる気がした。