気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。本稿では、超富裕層を顧客にプライベートバンク事業を展開するアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏に、富裕層が行っている節税対策について伺った。(取材・構成 ダイヤモンド社書籍編集局)
富裕層の「終活」事情
――『ルポ 超高級老人ホーム』では、相続税対策で自宅を処分した70代の資産家夫婦の話がありました。富裕層は相続税対策も早めにしているのでしょうか。
篠田丈会長(以下、篠田):お子様がいらっしゃる方は特に早くから気にしますよね。相続するのが不動産などでも、原則現金で払わないといけないのでお金の用意も必要です。日本は本当に相続税対策が大変ですよね。
――具体的にはどのような対策をしているのでしょうか。
篠田:割とよくあるのは、資産管理会社を作ってその会社の借り入れを増やすやり方です。大体は不動産を買ったりして、何十億とか何百億とか大きく借り入れをします。そうすると資産管理会社の価値が落ちますよね。だから、価値を落とした資産管理会社の株を譲渡したり相続したりすることで節税になります。これは一般的によく知られているケースです。
――実際に借金をしてしまうのですか?
篠田:本当に借りるんです。結局相続税が大変なのって、資産の価値が大きいからなんです。100億円を相続しようとすると50億円以上取られるわけじゃないですか。でも、その100億円の実態が変わらないまま60億円ぐらいまで価値を落とせれば、相続税は30億円で済むんです。50億円と30億円じゃ相当違いますからね。
――借金をすると実際にお金が無くなってしまわないのでしょうか?
篠田:なので、きちんと価値のある不動産などを買っています。銀行からお金を借りるので、会社の価値は下がってしまうのですが、資産として利回りがよければそのまま持っておくという方も結構いますね。
武富士創業一族が作った
「ずるい節税スキーム」
――富裕層の節税対策で驚いたエピソードはありますか?
篠田:すでに倒産していますが、消費者金融で一時期有名だった武富士の話です。武富士の創業家は世界中にSPCと呼ばれる特別目的会社を作って、とことん節税をしていました。ヨーロッパにいくつも会社を作って最後は東アジアのとある国に持ってくるという節税スキームを、数十億かけて構築したといいます。
しかも最後は国税庁と裁判で争って、国税庁が負けたんです。なので、国税庁から武富士の創業一族にものすごい額の還付金も払っています。
――節税スキームを作るだけで数十億円かかったとは驚きです。
篠田:お金を海外に持っていって、なおかつ税金はかからなかったというパターンですよね。そういう節税スキームを作るサービスをしている人たちがいるのです。そのおかげで、会社は倒産してしまいましたが、創業一族は全然没落してないようです。
――今でも同じことができるのでしょうか?
篠田:当然、国税庁は同じことができないように税法をどんどん変えています。パナマ文書でも日本の有名人の名前が出ていましたが、今はタックスヘイブン対策税制もあるので、海外に資金を移しただけでは節税できませんね。税金は払ってしまうのがいちばん簡単ですね。
アリスタゴラ・グループCEO
2011年3月から現職。1985年に慶応義塾大学を卒業後、日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナークラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。