気鋭のノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。本稿では、葬儀事業を展開するニチリョクをグループ企業にもつアリスタゴラ・グループCEOの篠田丈氏に、超富裕層の終活事情について話を伺った。(取材・構成 ダイヤモンド社書籍編集局)
高級老人ホームは「狭すぎる」
――『ルポ 超高級老人ホーム』では、自ら進んで老人ホームに入居する富裕層たちの姿が描かれていました。
篠田丈会長(以下、篠田):私の周りでは本人が施設に入った話はまだ聞かないですね。親が施設に入っているケースはあります。
もちろんお手伝いさんがいる方も多いのですが、介護までお願いするわけにはいかないのではないでしょうか。また、施設に入る前に突然亡くなった方もいますね。元気なうちに突然亡くなられる方も多いんですよ。
――やはり老人ホームに入りたくない富裕層も多いのでしょうか。
篠田:施設に入ってみなきゃ分かんないっていうところが、ハードルが高いように思います。ちょっと博打みたいな感じもありますよね。
それに、ほとんどの老人ホームって圧倒的に狭いんですよ。富裕層は広い家に住んでる方も多いので、高齢になったとはいえ50平米前後の部屋では耐えられないと思います。
最低100平米はないと厳しいのではないでしょうか。なので、これからどんどん広い部屋の老人ホームができるんじゃないかなっていう気はしますね。
――海外の高級老人ホームはどうなのでしょうか。
篠田:中国の高級老人ホームを見たことがあるのですが、200平米、300平米くらいある施設が少なくないんです。もちろん国土が広いからっていうのもあると思いますが、考え方の違いなんだと思います。たとえ介護施設であっても、自分が暮らす部屋を小さくしようという気がないんでしょうね。
設備の充実度は国によりますが、東南アジアはまだまだ高級老人ホーム自体が少ないほうです。アメリカはきちんとした施設がありますし、もちろんヨーロッパにもあります。
「エンディングノート」で
しっかり準備
――富裕層のお葬式の傾向などはあるのでしょうか。
篠田:最近は盛大なお葬式にする方は少ないですね。かなりの富裕層でも、家族葬で終わらせることが多いです。亡くなる方って、残された家族に迷惑をかけたくないという気持ちがあるんです。だからお葬式もできるだけ小さく簡単にしたいと生前から話している。
お金があるのに、こんなに簡単に済ませるのかと思う時もあります。どうしてもという時は、お葬式とは別に「お別れの会」を開く場合もありますね。
――すべて故人の意思なのでしょうか。
篠田:やはりご自身の意思ですね。家族葬って、多くの場合は家族のみで見送るわけですよね。でも、事業をやっていた方なんかだと、故人を見送りたい方っておそらくすごい数がいるはずなんです。
だから、本来そういう人たちが故人を見送る機会をなくしてしまっていいのかなと思うことはあります。どうしてそこまで資産をたくさん作れたのか、なぜ色んな人と交われたのかは考えたほうがいいのかもしれません。
――事前に家族としっかり話しておくことが重要なのでしょうか。
篠田:会社を大きく展開している方だと、エンディングノートなどを書いてしっかり準備していることが多いですよね。こういうふうにやってほしいという話も、会社の番頭さんのような方に話していたり。
番頭さんは、経営者やその家族が何をやってるか基本的に全部知っているので。資産管理も任されている場合もありますね。それこそ元銀行の方なんかが番頭になったりしています。やはり元気なうちから周囲の人に希望を伝えておくことが重要ですね。
アリスタゴラ・グループCEO
2011年3月から現職。1985年に慶応義塾大学を卒業後、日興証券ニューヨーク現地法人の財務担当役員、ドレスナークラインオート・ベンソン証券及びINGベアリング証券でエクイティ・ファイナンスの日本及びアジア・オセアニア地区最高責任者などを歴任。その後、BNPパリバ証券で株式・派生商品本部長として日本のエクイティ関連ビジネスの責任者を務めるなど、資本市場での経験は30年以上。現在、アリスタゴラ・グループCEOとして、日本、シンガポール、イスラエルの拠点から、伝統的プライベートバンクと共に富裕層向け運用サービスを展開、また様々なファンドを設定・運用、さらにコーポレートファイナンス業務等を展開している。