祖父から父へ、「夢、そして誇り。この街で……」

父の命を受けて洛和会ヘルスケアシステムに戻ってきた私は「洛和会が運営する全施設をすべて見て回ろう」と決めた。施設・事業所が当時およそ170か所。私は1年をかけて全容を見て回った。そして私たちの仕事は「医療・介護・保育を通じての街づくりであり、おもてなし」だと心から思った。

「医療」と切っても切れないのが「介護」である。私も介護の世界でも働いていたが、その仕組みとスケールがまったく違う。いくつもの施設が同じ洛和会の病院などと連携しながら、利用者が安心できるサービスを提供している。このサービスが京都の街に根づいていたのだ。この気づきこそ、私自身の、医師資格をもった介護施設での1年にわたる経験が、仕事に活きていると感じた瞬間だった。

祖父から引き継いだ父が掲げたスローガンが「メディカル・ルネッサンス」だった。その後「発展、ともに前へ…」、そして2019年に掲げたのが「夢、そして誇り。この街で…」だったのだ。

地域と歩む洛和会ヘルスケアシステムは、2019年アニメ制作会社「京都アニメーション」の大事件に直面する。この事件で重篤な患者とその家族だけではなく警察やメディアなど人が押し寄せ、さらに警察やメディアの情報以外のインターネットやSNSなどによる誤情報やフェイク情報が広まり大混乱が起きた。

私はこの時、現場の要請を受け「災害対策本部」を立ち上げた。医療現場とは別に情報収集の窓口を作り、分単位で情報を共有できる仕組みを構築しようとしたのだ。これが翌年2020年春から猛威を振るった新型コロナウイルス対応にも大いに活用できた。

医療改革は働き方改革から

とても大きな事件、パンデミックを経た2022年4月、父の突然の引退宣言で私は洛和会ヘルスケアシステムの理事長に就任することになった。祖父そして父が築き上げてきた病院と介護・保育を連携させた「洛和会ヘルスケアシステム」に頭が下がる思いだ。すでに組織としての幹はできている。あとは「枝葉」の部分を、どのように時代の変化を見越して広げたり、刈り込んでいくのか。新たな社会課題を解決するために、この組織がどう変化・対応できるか。そこに挑戦するのが、私に与えられた仕事だと思った。

そこで私は、ICT化、DX化の環境整備に積極的に取り組んだ。経営方針に関する決済や経理処理、各部署から上がってくる報告書などすべてデジタル化するシステムを導入した。職員同士のコミュニケーションにも電話やメールだけではなくビジネスチャットを活用できるようにした。会議や研修もオンライン上で行い、その記録はサーバーにアップしている。

さらに優秀な医療従事者の確保と、優秀な人材に長く働き続けてもらうための環境整備も進めた。男性職員も取得可能な「子ども養育のための休業制度」や「不妊治療及び卵子凍結保存支援制度」、ダイバーシティとして福利厚生の対象を事実婚や同性パートナーにも広げた。

まだまだやるべきことは山ほどある。私はそれらの課題に一つ一つ取り組んで、「やさしい社会を創造する」ために、地域の方たちも、洛和会ヘルスケアシステムの従事者も、みんな幸せになれる道を進んでいこうと思う。

※もっと詳しくご覧になりたい方は、ぜひ本書『地域医療と街づくり 京都発!「日本の医療がかわる」経営哲学』をご覧ください。