トヨタ自動車とNTTが提携、その狙いは?

 トヨタ自動車とNTTの提携の背景には、両社が持つ優位性を生かしてAI開発を加速する狙いがある。トヨタはエンジン車、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)など全方位型の事業戦略を展開している。そして今のところ、自社で自動車の設計、開発、製造、販売する、いわゆる「垂直統合型」のビジネスモデルを維持している。

 リーマンショック後、スマホ普及など世界経済のデジタル化は加速している。2022年11月、米オープンAIがChatGPTを公表すると、世界全体でソフトウエアの重要性は急上昇した。半導体分野では、米エヌビディアなどが半導体の設計と開発に取り組み、チップ(ハードウエア)の製造は台湾積体電路製造(TSMC)が受託した。これらの有力企業は自社の優位性を生かしつつ、他の有力企業と提携を行う「水平分業型」のビジネスモデルの形態を取っている。

 水平分業は自動車業界にも浸透している。中国では、スマホメーカーのシャオミが自動車メーカーの協力を取り付けEV分野に参入した。新規参入企業は車体のデザイン、走行システムなどソフトウエアを開発する。仕様に応じた車載用バッテリーやボディなどを調達し、協力企業がユニット組み立て型の生産を行う。トヨタなどがすり合わせ技術を磨いて創出した付加価値が、水平分業を取る企業に流出するリスクは上昇している。

 最先端のソフトウエアに習熟し、新しい技術の習熟、実用化をスピードアップする。そのために水平分業を進める意義は大きい。トヨタはNTTをパートナーに選んだ。NTTは、電子ではなく光で通信速度を上げる、「光半導体」(光電融合デバイス)の実用化にも取り組んでいる。

 現在、AIのトレーニングや性能向上には、米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)をどれだけ確保するかが重要になっている。ただ、AIに使われるGPUの電力消費量は大きい。電力消費量の抑制に加え、遅延なく大量のデータを高速に伝達するデバイスとして光半導体の注目は上昇している。

 トヨタが自動車に乗る人、歩行者などの安全性を高めるために、車載用AIのデータ転送速度の向上は必要だ。NTTとしても光半導体の社会的な役割を確認し、その性能向上を実現するために自動車企業と協業する意義は大きいはずだ。