AIが広げる美大出身ではない人が
デザイン担当の役員になる可能性

デザイナーは本当に経営目線で判断ができるのか?デザイン経営の成功の鍵を握るCDOの条件YUTAKA HASEGAWA
MY-THOUGHTS代表。1961年、神奈川県生まれ。東京造形大学卒。90年ソニー入社。商品やコミュニケーション等を多彩にデザイン。2014年にソニークリエイティブセンター長、20年にソニーデザインコンサルティング初代社長就任。現在はヤマハ発動機クリエイティブパートナー、NECクリエイティブアドバイザー、株式会社わさび顧問、JST(さきがけ)研究領域「生体多感覚システム」領域運営アドバイザー、Technology Creatives Program(テックリ)運営委員会委員などを務める。

――そうなると、CDOはデザイナー出身でなくてもいいかもしれませんね。

 そうですね。CDOという役割を定義することで、デザイナーとは一線を画した育成の方法論が構築できるような気がします。ただし、クリエイティブを解釈し、主体的に説明できることは必須だと思います。

 ちょっと話は変わりますが、最近、生成AIをいろんな場面で試しているんです。これはプロンプト(指示・質問)次第で、自分の頭の中にあるイメージにかなり近いビジュアルが出せる。これならデザイナーでない人でも、ビジョンを文章で的確に表現できる人なら簡単にビジュアルをアウトプットできます。すると、アウトプットできることより、その手前の「ストーリーをイメージして言語化できるかどうか」がクリエイティビティの本質になっていく。ここにもCDO育成のヒントがあると思います。

 今はまだ過渡期ですから、属人的な資質が突出したデザイナーが、結果として執行役員やCDOになるケースが多いと思います。そうではなく、会社に不可欠な機能として固定化されなくては、本当の意味で企業文化に根付きません。個人が頑張るだけでは、その人が引退したり、CEOが交代したりするとポジションそのものがなくなってしまう。それではデザインの力が企業価値に積み重なっていくことにはなりません。

――CEOとCDOがタッグを組んで企業価値を創造していく事例が日本の大企業に広がれば、本当の意味での「デザイン経営」が広がっていきそうですね。

 そのためには、経営者のデザインに対する理解も深まらなくてはいけません。そうでないと、デザイナーに何をどうオーダーすればいいかも分からないですからね。しかし、大企業の経営者の多くは管理系、マーケティング系、技術系出身ですから、デザインに口を挟むことに遠慮がある。なかなか本質的な対話になりにくいのではないでしょうか。

 これまで、デザイナー側から経営者側への発信が不足していたことも反省しなくてはいけません。この記事もそうですが、ビジネス系メディアで、ビジネスパーソンに理解できる言葉で、私たちデザイナーがデザインのバリューを語る機会も増やしていくべきだと思っています。