先ほどもいったように、関西には「なんでやねん!」という普遍的なパワーワードがあるけども、関東にはそれがない。だから関東勢は手段で売れるほうへと行きがちやと見ることもできるでしょう。
繰り返しますが、これはあくまで傾向であって、すべての漫才師に当てはまるわけではありません。僕自身、関西の出身ですが、「手段」を一生懸命考えてきたからこそ、賞レースなどでも結果を出してこれたんやと思っています。
「僕は吉本所属だから成長できた」
最後に、これもよく聞かれる「吉本興業の芸人と他事務所の芸人の違い」にも触れておきます。簡単に言うと、よくも悪くも「環境」が違います。
吉本に所属していると、新人でもネタを披露するチャンスがたくさんあります。実戦経験を積み、さまざまなタイプの先輩たちの芸を目の当たりにし、ライバルとも切磋琢磨しながら芸を磨く──というプロセスが、ごく自然に成立します。
ただ、ネタを披露するチャンスや他の芸人のネタを見るチャンスに多く恵まれると同時に、それだけ競争が激しい厳しい世界でもあります。
ウケない、売れないことによって芸人を引退してしまう人もいるし、他のコンビと自分たちを比べて「あいつらと似てるから変えよう」「今いい感じのあいつらと同じようなことをやっていたら埋もれてしまう」といった自主規制も働きがちです。
本来なら縦に伸びることに使われるべきエネルギーが、他との比較で左へ右へと身をかわしながら自分の居場所を探すことに割かれている、といったら伝わるでしょうか。
激しい競争にさらされ、技術は確実に磨かれる。ただ、縦に伸びるスピードは、他事務所の芸人たちと比べると鈍くなりがちなことは否めません。
一方、吉本以外の事務所ならば、同業者の比較対象はそれほど多くないので、いい意味で盲目的にやっていけるし、そのおかげで自分の信じる面白さを順調に伸ばしていけるんやと思います。
現にM-1グランプリでも、2023年に吉本所属の令和ロマンが優勝する前、錦鯉、ウエストランドと他事務所所属のチャンピオンが続きました。どちらのコンビも、下手に他と比べず真っ直ぐに育った巨木のように思えました。
特に2022年のM-1決勝は、見ている人たちにとっては、ちょっと衝撃的やったのではないでしょうか。