アドビシステムズと聞いて、どんな企業を想像されるだろうか。

 たいていは、ドキュメントを美しく印刷したりPDF化する技術を生み出した企業といったところだろう。あるいは、ウェブサイトや映像のクリエーターが使う複雑なツールを開発するソフトウェア企業だと思われるだろうか。

 いずれにせよ、あくまでも製作系のツール開発企業であって、経営管理の主流には無関係な企業と位置づけられるのではないだろうか。

 だが、現在のアドビはツール開発から始まったフットプリントを今やビジネス・プロセスにまで拡大して、企業内外で使われる企業関係管理ソフトを金融業界、政府関連組織、製造業、生物化学といった業界に提供しているのをご存知だろうか。また、その一方で、クリエーターが生み出すあらゆるコンテンツの動きを牛耳ることも不可能ではないというポジションにあることもご存知だろうか。

 現在のアドビは、ユビキタスに行き渡ったPDFやフラッシュといった技術をテコにして、これまでとはまったく異なった企業に変身を遂げようとしているのである。

コンテンツ資産の
換金プロセスを握る存在

 現在、アドビの社内で交わされているキーワードはこれだ。「プラニングからプレイバックまで」。

 当たり前のことだが、コンテンツの製作には一連の流れがある。企画して材料を集めて実行し、出来上がったコンテンツを管理、出版して、さらにディストリビュートし、一般消費者がプレイバックする。

 従来のアドビはこの前半部分、つまり企画から実行までを主にサポートしてきたわけだが、今はその照準を後半部分にしっかりとあて始めている。なぜならば、この後半部分こそ、持てるコンテンツ・アセット(資産)を換金できるプロセスだからだ。

 なぜ、この換金プロセスをアドビが握っているかと言うと、アドビが今後前半部分の自動化をますます進めることによって、後半部分でも流用できるデータがたくさん生まれるからである。