OGPPhoto by Naoya Sato

 日本企業は「事業承継」の節目を迎えている。言うまでもなく、事業承継は、企業が事業存続を図り、そして日本の産業の活力を維持・拡大するうえで非常に重要だ。また、企業を取り巻く経営環境が刻々と変化する中、企業は変化に柔軟に適応し、進化していく必要がある。

 そのため、企業の「サクセッションプラン」(後継者育成計画)への関心が急速に高まっている。さらに企業は、後継者を育てるだけではなく、後継者を支え積極的に革新を推進する次世代の組織も、同時並行的に構築していかなければならない。そのことを踏まえると、事業継承は組織にイノベーションを起こす絶好のタイミングでもあるのだ。

 とはいえ、いったいどこから手をつけるべきか、いつから取り組むべきか、どのように進めていくべきか、試行錯誤している企業がほとんどであることも事実だ。そしてそこには、世代間のギャップや、伝統と革新のギャップもある。

 今回、静岡県立大学経営情報学部教授であり、事業承継学会常務理事の落合康裕氏に、企業が抱える事業承継や後継者育成に関する課題や現状、取り組み方について、複数回にわたり解説していただいた。その第2回目をお届けする。(編集/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、撮影/佐藤直也)
※本記事は、2024年9月11日に開催された、「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のイベント、「組織を活性化させるサクセッションプラン」における講演をもとに記事化したものです

実力以上の困難な課題を割り当てる
「タフ・アサインメント」

 前回、サクセッションプランの成功を握る3つのポイントについて解説いたしました。今回は、私が調査対象にしているある老舗企業の、「後継者の配置パターン」の事例を紹介したいと思います。

 以下は、老舗企業が後継の経営者を育てるための仕事の与え方の典型例です。

図提供:落合康裕氏

 図をご覧ください。図の下に「中心部門」「周辺部門」とあります。

「中心部門」とは、本社部門や基幹事業の部門を示します。

「周辺部門」とは、新規事業の部門やプロジェクトチーム、戦略的な子会社、海外の現地法人を示す、と考えてください。周辺部門は、人事関係の方がよく使う「タフ・アサインメント」(※)という仕事経験になります。今回の事例の老舗企業も、後継者に対し最初は海外の現地法人で経験を積ませ、その後、本社部門へ呼び戻しました。
※飛躍的な成長を促すため、実力以上の困難な課題を割り当てること

 ここで考えてみてください。なぜ、後継者を、本社の基幹事業の部門に最初に配置せず、海外の現地法人のようなタフ・アサインメントを先に経験させるのでしょうか。

 まずは本社に配置して本社の慣習などを学んでもらい、その後、海外へ行ってもらう、新規事業を任せる、という形でもいいはずです。これは、私たちもよく学会で議論をする重要な論点の一つです。この後継者の配置パターンの理由は、2つあるといえます。