「事業承継」は、企業が事業存続を図り、そして日本の産業の活力を維持・拡大するうえで非常に重要といえる。また、企業を取り巻く経営環境が刻々と変化する中、企業は変化に柔軟に適応し、進化していく必要がある。
そのような中、企業の「サクセッションプラン」(後継者育成計画)への関心が非常に高まっている。企業は後継者を育てるだけではなく、後継者を支え積極的に革新を推進する次世代の組織も、同時並行的に構築していかなければならない。そのことを踏まえると、事業継承は組織にイノベーションを起こす絶好のタイミングでもあるのだ。とはいえ、いったいどこから手をつけるべきか、いつから取り組むべきか、どのように進めていくべきか、試行錯誤している企業がほとんどであることも事実だ。そしてそこには、世代間のギャップや、伝統と革新のギャップもある。
今回、企業が抱える事業承継や後継者育成に関する課題や現状、取り組み方について、 静岡県立大学経営情報学部教授であり、事業承継学会常務理事の落合康裕氏に複数回にわたって解説していただく。(編集/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、撮影/佐藤直也)※本記事は、2024年9月11日に開催された、「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のイベント、「組織を活性化させるサクセッションプラン」における講演をもとに記事化したものです
「事業承継」を取り巻く環境が大きく変化
「事業承継1.0」から「事業承継2.0」へ
「サクセッション」、つまり「事業承継」の問題は、日本経済において重要なテーマのひとつになってきました。他方で、事業承継を取り巻く環境は大きく変化しています。私は、事業承継に関するこの大きな環境変化を「事業承継2.0」というふうに呼んでいます。
「事業承継1.0」は、おもに高度経済成長期、1960年代から始まって、そして、バブル経済崩壊前後、だいたい1990〜2000年代あたりまでですね。この辺りの企業におけるサクセッションというものは、どちらかといえば、「つなぐ」、つまり「前の経営者から次の経営者につないでいく」ものと、「選ぶ」、つまり「次の経営者としてどのような人材を選ぶべきか」、この2つが中心であったといえるのではないでしょうか。
一方で経営環境というのは激変しています。人口減少、コロナ禍、技術革新、特にAIの進化はめざましいものがあります。それに伴い、事業承継を取り巻く環境も複雑・混沌化してきているのです。そのような中で、サクセッションに求められるものが変化してきており、「育てる」「備える」が重要視される、「事業承継2.0」の時代に入ってきたのではないかと考えています。
その理由をご説明させていただきます。