生理的な指標と被験者のコメントを合わせて分析して、何が「快」で何が「不快」なのかを分析する仕事だという。
「ときには、不思議なことに、生理的な指標では明らかに『快適』を示しているのに、本人の主観では『使いにくい』と感じている、ということもあるんです。そういうズレを見ると、人間の心はわからないものだと思いますね。だから面白いんですけど。
心理学をやっていると『人の心がなんでもわかるんですよね』とよく言われます。でも、全然そんなことありません。むしろ私は、人の気持ちがわからないから、心理学をやってるんだと思っています。ずいぶん失恋もしてきましたし」
物書きの感情にも興味があると「どんな気持ちで原稿を書くんですか?」と逆質問もされたが、締め切りが迫るにつれて不安や恐怖感が高まっていく様子をモニターされるのは、ちょっと勘弁してほしいと思いました。
しかしそう考えると、測定器が進歩して、自分の心理状態がすべて「丸見え」になってしまうのは、いささか怖いような気もする。
「私も大学の授業では、学生にその話をします。仮に将来すべての感情が『見える化』されたとき、はたしてそれによって、人類はみんなハッピーになるのだろうか、と。
ブルーバックス探検隊 著、産業技術総合研究所 協力
自動車のような機械が、怒りや不安を制御することで安全性や快感情が高まるのは、もちろん、よいことです。でも、それこそ恋心や思想信条などは、究極の個人情報ですからね。技術的にその読み取りが可能になったときに、それをどこまで社会として受け入れるのか。今後はそういうことも、議論していくべき重要なテーマになると思います」
とはいえ、「快感情を高め不快感情を弱める技術」の発展は、人類に多くの恩恵をもたらすだろう。「あおり運転」のような感情的トラブルが減らせるなら、極端な話、犯罪やヘイトスピーチ、ひいては戦争のリスクだって軽減できるかもしれない。
いまの社会で心理学の果たす役割は、じつに大きい。そんなことを強く感じた探検であった。