企業不正に詳しい警察大学校の樋口晴彦博士が、2022年9月に公表された株主対応コンサルティング・IRジャパンの不正調査報告書について、「企業に阿(おもね)るような報告書」であると批判する論文を公表した。問題の報告書は元検事正の弁護士や第10代金融庁長官の遠藤俊英氏が委員となって作成したもので、IRジャパン経営陣に不正の疑義はないと結論づけていた。ダイヤモンド編集部は公表直後の連載で、この報告書について「調査不足と詭弁(きべん)に満ちた報告書」と批判していた。論文では、こうした問題のある不正調査報告書が出ないための提言も行っている。(フリーライター 村上 力)
インサイダー、マッチポンプ…
開示不正疑惑の真相は?
論文が掲載されたのは千葉商科大学国府台学会が発行する学術誌『千葉商大紀要』の2024年11月号で、論題名は「アイ・アールジャパンホールディングスの信頼失墜事案の事例研究」。執筆者は警察大学校博士で企業不祥事に詳しい樋口晴彦氏だ。IRジャパンを巡って22年に相次いで発覚した不祥事について、網羅的に分析する内容となっている。
企業の株主対応支援などを手掛けるIRジャパンでは22年6月、副社長のインサイダー取引疑惑と、業績予想の修正を巡る開示不正疑惑が、ダイヤモンド・オンラインの報道により浮上。同社は元検事正の高野利雄弁護士、元金融庁長官の遠藤俊英弁護士、中久保満昭弁護士による調査委員会を設置し、二つの疑義に関する報告書を同年9月に公表した。
9月の報告書では、社内のインサイダー規制の教育が不徹底であったことは認めたものの、開示不正疑惑については、業績見通しに不合理はないとして“シロ”判定。その結果、社長である寺下史郎氏はほぼ無傷で乗り切った。
しかし11月、ダイヤモンド・オンラインがIRジャパンのマッチポンプ疑惑を報道。新たに第三者委員会(委員長・山口利昭弁護士)が設置され、23年3月、マッチポンプ行為や利益相反などが認められた。
樋口博士の論文は、既に認定されたインサイダー取引、マッチポンプ行為、利益相反について分析している。
さらに、調査委員会ではシロ判定された開示不正疑惑について独自に分析し、業績見通しや開示の時期が不適切であったとし、9月の調査報告書とは異なる見解を示している。その詳細を次ページで明らかにする。