結局、選んだ道を
正しくするしかない 

 資金を集めたい一心で投資家たちからのアドバイスを受け入れた結果「心の底からやりたい事業」ではなくなっていたからだ。しかし、他に6人のメンバーを巻き込んでいたため、彼らの時間を奪ったことへの責任を感じた。

 父親に相談したところ「お前がどう生きたいかじゃないのか?」と言われたという。

「答えを教えてほしくて相談したわけではないのですが、根源的なことを見ろ、と言ってくれたのだと受け取りました」

 AとB、どちらか悩んでいる最中に答えは見つからない。結局、選んだ道を正しくするしかない。

「そのためには自分がワクワクする方を選ぶことが大事だと、そのとき強く思ったのです」

 その後、小川氏は大学に通いながらバイト漬けの日々を送った。そんな毎日で不便に感じたのは、応募や面接に時間や手間がかかること、給与振り込みまでにタイムラグがあること、働いてみないと現場が分からないことなど。「勤務後に相互に評価し合うシステムがあったらいいのに」と思ったことが、タイミーのアイデアにつながった。

「今思えば、いい意味で欲がなかったんですね。Recolleのときは、起業したい、上場したいと欲だらけでした。タイミーは、『こういうサービスを作りたい』という純粋なものづくり精神が出発点になっていました」

 当時、巷では人手不足やブラックバイトなど、労働に対するネガティブな言葉があふれていた。働く時間は人生の4分の1を占める。働くことを楽しめないと人生もつまらないし、経済成長にもつながらない。メンバーたちと夢中になって「働くことを楽しさで彩りたい」という世界観を語り合った。

 サービス開始後には、雇用側の現場にも足しげく通い、タイミーのワーカーと正社員の業務をどう切り分けるかの作業やマニュアル作りに注力した。

「会社設立当時に飛び込みで営業したタイ料理店の主人から『いいワーカーさんに出会えて素敵な現場になった。ありがとう』と言われたとき、お金の話よりも先に現場の話になったことに感激したのを覚えています。これが自分たちがつくりたかった世界だと」