男女の賃金格差が大きい地域は
栃木県、茨城県、長野県、東京都、愛知県

 さらには、都道府県の格差もあります。

 私は24の都道府県を回って中小企業の話を聞いてきましたが、どこに行っても「人が足りない」という声ばかりが聞こえてきます。外国人労働者や高齢者の活用も進めていますが、女性の力をもっと活用できないかと提案しています。

図4出典:厚生労働省「都道府県別の女性の就業状況等について」P1 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001298022.pdf
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 こちら(右の図)は、都道府県別の、女性の就業状況(管理職に占める割合と、平均勤続年数の差)や賃金格差について、詳細な分析を行った結果です。

 栃木県、茨城県、長野県、東京都、愛知県は、特に賃金格差が大きい地域として浮かび上がってきました。

 東京都は意外かもしれませんが、東京で賃金格差が大きくなることについて、2つの理由が考えられます。1つは、東京では男性の賃金がもっとも高いため、フルタイムの場合であっても非正規労働で働くことが多くなる女性との差が激しいこと。また、企業の本社機能が集中しているため、全国から男性が転勤で集まり、女性はそれに伴って、自身の仕事を辞めてついてくることも多い。すると、再就職する場合に非正規雇用になりがちで、給与が下がってしまう。これがもう1つの理由です。

 愛知県も特徴的です。(トヨタ自動車を中心とした)自動車産業があるため人口は減少していませんが、そうした企業で働く男性は、賞与も含めて年収が高く、その影響で、そこで働く男性と結婚した女性が早期に退職し、専業主婦になる傾向が強くなるという、そういう要因があることも否定できないのではないでしょうか。

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 実際、愛知県は、女性の勤続年数が全国でもっとも短く、管理職比率ももっとも低い。栃木県も製造業が強く、愛知県と同様に、女性の早期退職が目立つ地域です。

 男女の賃金格差が大きい地域では、若い女性たちが「ここでは活躍できない」と考えて、地域を離れてしまいます。

 その結果、福島県や富山県のように、若年層では男性の人口比率が高くなる地域が出てくる(※)。すると、その地域で未婚率が上昇。当然、出生率も低下して少子化が加速する、という負の連鎖が起きるのです。
※参考:女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム「女性の職業生活における活躍とマクロ経済」(2024年5月公表)P7
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001254074.pdf

 こうした地域の状況は、政府の意識調査とも関連しています。東京圏に転出した女性に対して、出身地では「男は外で働き、女は家庭を守るべき」という考えがあったかについて聞くと、約半数の人が同意しており、女性のなかにもそのような思い込みがあるわけです。そして、このような価値観が強い地域ほど、女性の流出が顕著であることもわかっています。

 現在は、各都道府県知事に対して、それぞれの地域の状況について詳細な分析を依頼し、対策を検討しています。

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田原 石破総理は「地域創生」を掲げていますが、これほど格差があると、問題は複雑です。地域や自治会でお祭りなどの行事をすると、おみこしを担いだりと「中心的な役割」は、男性ばかりのところが今も多いですね。

矢田 その裏で、女性は、お茶くみや、お弁当配りなど「補助的な役割」をしていることも多いですね。

 それら含め、無意識の偏見や固定的な役割分担が、若い女性たちが「地元にいても活躍できない」「このようなところではキャリアを積めない」と感じ、地域を離れる要因になっています。

田原 僕は滋賀県出身で、滋賀には行きたいと思う大学がなかったから東京に出てきた。こうして東京に出てくると、結局、そのまま東京で就職する。こうした例は、今も男女問わず、多いでしょうね。

矢田 おっしゃるとおり、地方に魅力ある教育機関や働く場を創出することは、とても重要な課題です。私たちは、県外に流出した人たちに、移住した理由を聞くということを行っています。それも含め、石破総理には、「選ばれる地方になるために」というテーマを掲げ、地方創生の真ん中に女性活躍を置きませんかと、提案しているのです。

田原 石破さんの反応はどうでしたか。

矢田 受け止めてくださり、例えば石破総理のご出身の鳥取県でも先日、これをテーマに講演されています。賃金格差を是正したり、何より非正規雇用が多いので、正規雇用になれるように仕組みを再整備したり、L字型カーブ(※1)の正規化を進めたり、男性にもう一歩進んで育児に参画していただいたり、こうしたことを、ご自身の言葉で語ってくださっています(※2)。
※1 L字カーブとは、おもに日本の女性の正規雇用比率(働く女性の割合)を、年齢階級ごとにグラフ化した際に見られる特徴的な形。女性が20代から30代にかけて、結婚や出産・育児を理由に一度、労働市場から離れるため、女性の正規雇用比率は20代まで上昇するが、結婚・出産・育児により、30代前半で急激に減少する。この部分が「L字」の縦線にあたる
※2 参考:日本創生に向けた人口戦略フォーラムinとっとり「『魅力ある働き方・職場づくり』のために何をすべきか」(2024年11月30日) https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20241130siryou.pdf

田原 たしかに、女性の非正規雇用が多いのも問題ですね。

矢田 背景には、複数の構造的な要因が存在していますが、前述のように、男性の収入が十分にある場合、女性がいったん、仕事を辞めて専業主婦となり、その後、再就職する際に非正規雇用として働くというパターンが多く見られます。扶養から外れてしまうことを恐れるということもあるでしょう。

 それで、今回、例えば「短時間正社員制度」というのを強く打ち出しています。非正規雇用ではなく、短時間、正社員として働く。非正規雇用を選択せざるを得ない状況を改善し、正社員としての雇用を維持しながら、働き方の柔軟性を確保することをめざしています。

政治や経済の上層部での女性参画は
これからの社会や経済には不可欠

田原 ドイツやイギリスなど諸外国では女性が首相になる例も増えているのに、日本ではいまだに実現していません。

矢田 政治家になってあらためて思ったのは、当事者意識を持った女性たちにさらに政治に参画してもらわなければ、女性活躍にまつわる課題などの優先順位が上がらないということです。

 議員の数は社会の縮図なので、ここをテコ入れしない限り、状況を変えることは至難だと思います。ジェンダーギャップ指数でも、日本の順位が特に低いのが、政治分野と経済分野ですからね。

田原 経済の面では、女性の役員を3割にという目標がありますね。

矢田 はい。数値を目標とすることに反対する人もいますが、結果論として3割にすることが重要なのではなく「目標値を掲げること」が大切です。なぜなら、そこに到達するまでに現在とどれくらいギャップがあるのか、それはなぜなのかを、認識することができるからです。

 日本の社会や経済の活性化のためにも女性活躍が不可欠なんだということを、今後もデータに基づいて、ひとつひとつ具体的に示しながら、政策を進めていきたいと思います。

田原 知らなかったデータをいろいろと見せていただいて、蒙(もう)を啓(ひら)かれました。ありがとうございました。

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