買収後、将来的なIPOで
「再び米国で偉大な企業」へ
日本製鉄にとって非常に厳しい状況が続く中で、ウルトラCの秘策があるとしたら、USスチールを再び「米国で偉大な企業」にすることではないでしょうか。
ヒントになるのはトランプ氏の発言です。「Make America Great Again」(米国を再び偉大に)は、彼の決め台詞として有名ですね。そして、買収計画に対しては「関税(引き上げ)によってより高収益で価値のある企業になるというのに、なぜUSスチールを今売ろうとするのか?」とSNSで発信しています。
そこで考えられる策として、日本製鉄がUSスチールを買収した後、将来的に米国で再び株式上場(IPO)させるビジョンを提案し交渉するのです。
日本製鉄は、USスチールを100%子会社化する方針です。しかし将来的に再びIPOして、議決権のない種類株式の発行などでコントロールを維持しつつ、米国に経済的便益のみを戻すことは可能でしょう。
一般的に親子上場は、利益相反の観点から問題視される場合もあります。が、うまく整理すれば可能です。
例えば人気回転寿すしチェーンのくら寿司は、米国の完全子会社Kura Sushi USAを2019年にナスダック市場にIPOさせています。その株価はうなぎ登りに上昇し成功事例として語られているほど。くら寿司は、種類株式を上手く活用してKura Sushi USAのコントルールを維持しているのです。
また、ソフトバンクは2013年に米国で携帯電話のスプリント・ネクステルの株式約70%を買収して子会社にしました。その後、スプリントのライバルであったTモバイルUSと合併させ、Tモバイルを存続会社として米国で事業を展開しています。
USスチールに話を戻すと、冷静に考えれば、単独で生き残ることは極めて困難でしょう。日本製鉄と一緒になって雇用を維持し、老朽化した設備の更新費用を獲得できれば、復活に向けた狼煙を上げられそうです。そうして将来の再上場を描くことで、トランプ氏からすると「米国民への素晴らしい約束」として、支持されるのではないでしょうか。
彼の性格ですから、「IPO後の新社名をトランプ・スチールにしたらどうか」なんて冗談を飛ばすかもしれません。さまざまなハードルもあると思いますが、それこそトランプ氏の成せる業で、既存のフレームワークをねじ曲げることもできそうです(その賛否は横に置いておいて)。