政治問題化した「USスチール買収」の行方、 経済安全保障を名目にした保護主義の危うさPhoto:Bloomberg/gettyimages

ハリス氏も買収に「慎重発言」
大統領選の思惑で民主、共和“共振”

 佳境を迎えている米大統領選挙で、日本企業にとって最大の関心事の個別問題は日本製鉄によるUSスチール買収問題だ。

 両社にとってウィン・ウィンの結果をもたらす案件のはずだったが、合併合意に対してMGA(偉大な米国の再現)を掲げるトランプ前大統領が「阻止する」と、待ったをかけていたのに加えて、9月2日にはペンシルベニア州での集会で、民主党候補のハリス副大統領が、3月に慎重姿勢を示していたバイデン大統領と同様に合併に否定的な見解を語った。

 2日は「レイバーデイ(労働者の日)」の祝日でありUSスチールの本社があるペンシルベニア州は、大統領選の帰趨(きすう)を決める接戦州のひとつ。そこでのハリス副大統領の発言は、同州の有権者やトランプ陣営への対抗を意識したことは明らかだろう。

 合併が実現するかどうかは、今後、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査とその勧告を受けてバイデン政権の判断に委ねられるが、これまでCFIUSで経済安全保障を名目に買収などが認められなかったのは中国関連企業だった。

 米大統領選の両陣営の思惑が色濃く反映する中で、この先の見通しを考えるのは困難だが、仮に同盟国の企業の買収が仮に認められないとなれば、日本製鉄とUSスチールという当事者や鉄鋼業界を超えて、経済安全保障のあり方や国際貿易や投資環境に大きな影響を持つことになるだろう。