『鬼平犯科帳』の悪党と「闇バイト」の共通点
フジテレビのファンの方はある意味でこの時代の江戸のことを一番よく知っているかもしれません。フジの人気時代劇『鬼平犯科帳』の舞台となったのがまさにこの松平定信の時代の寛政年間です。
あの心にしみわたるジプシーキングスのギターの演奏にあわせて雪の中、庶民が寒そうに立ち食い蕎麦をすする、あの江戸の町の風俗を鬼平ファンならば何度も目にしたことでしょう。
鬼平犯科帳はあくまで時代小説で、史実に忠実な歴史小説ではありません。しかし作者の池波正太郎さんは当時の風俗に深く通じ、史実にもとづいた時代考証をきちんとおこなっていました。
鬼平犯科帳の主人公・長谷川平蔵は実在の人物で、放送中の大河ドラマ『べらぼう』にも登場します。江戸の町に跋扈する悪党どもを取り締まる特別警察組織の火付盗賊改方の長官になった人物です。
興味深いことに、ドラマが放映されていた平成の頃は『鬼平犯科帳』は完全に作り事に見えていました。というのも成敗される盗賊たちは「急ぎ働き」といって、富裕層のお屋敷に押し込んで乱暴に住人を刺し殺して、現金を奪って逃げるのが主流。当時の日本人には現実感はありません。それが令和に入り、急に現実味を帯びてきます。
今では池波正太郎が作り上げたフィクションの盗賊の世界に、現代日本の現実が追い付いてきてます。
鬼平の世界では盗賊は分業が行われていて、嘗役(なめやく)という役割の仲間がまず盗みに入る商家などを下見します。今風に言えば「猫を探す闇バイト」のような役割の人がまず存在して、ねらい目の商家をリストアップするのです。
実際の強盗では口合人(くちあいにん)という斡旋をする業者を通じて実行犯を集めてターゲットの商家に押し込みます。SNSで集められた素人集団が高齢者の住む民家に押し込んで、指示役の指示のまま住民を縛り上げ、場合によっては誤って殺してしまうのとよく似ています。
つい最近は、芦屋の高級住宅街に海外から募集された強盗グループが押し入って、あとちょっとで関空から海外に逃げるところで身柄を押さえられました。
鬼平の世界では密偵とよばれる盗賊から足を洗ったメンバーが、身分を隠して盗賊団に入り込んで情報を集めます。警視庁は強盗団や闇バイト組織に対して仮想身分捜査を導入するのも、鬼平の時代と重なり始めました。
では蔦屋重三郎は、最期はどうなるのでしょうか。