今、社会では新しいビジネスモデルが切に求められている。しかし、残念ながら、そのようなイノベーティブな動きが社会的に加速しているようには見えないのが現状だ。それはなぜか? 日本は、過去において様々なイノベーションを起こしながら社会課題を解決し、自分たちの生活を豊かにしてきた。ある意味では、新たなプロダクトを生み出すことそのものが社会課題の解決にもつながっていたといえる。しかし、時代は変わり、「モノが溢れる=豊か」ということではなくなった。新たに突きつけられている社会課題に対し、企業、そして私たちには何が必要とされているのか。「社会システム・デザイン」を提唱する横山禎徳氏にそれらを聞いた。(取材/日本財団 経営支援グループ CSR企画推進チーム 町井則雄、撮影/白井綾)

触れなくて目に見えないもの

――横山さんは、「社会デザイン」とは異なる新たな概念「社会システム・デザイン」を提唱されていますが、違いはなんですか?

変革は“辺境”から生まれる<br />[社会システムデザイナー・横山禎徳氏]

「1950年頃から世界的に社会や都市を工学するという考えができたんですが、対象が大きすぎて「工学」できなかった。最近の「社会デザイン」も同じ問題で、実際は社会全体ではなく、コミュニティの一部を改善するか、情報システムの組み立ての方へ傾斜しています。私はハーバード大学のアーバンデザイン(MLAUD)にいて、その内容、方法論のなさに失望していたころ、MITのJ.フォレスター教授のシステム・ダイナミックスというモデル・シミュレーション手法に出合って“アーバンは茫漠としてデザインできないが、アーバン・システムなら少し明確だからデザインできるかも知れない”と思ったんです。

 システムにはスタティック・システムとダイナミック・システムがあるんですが、情報システムは毎回、まったく同じ処理をするという意味でスタティック・システムです。ダイナミック・システムとは、過去の蓄積がいまのパフォーマンスに影響するシステムであり、その典型は生命体です。疑似有機体である社会もそうです。だから社会は生命体のように過去の影響で自己創成し変革する。このような意味でダイナミックな「社会システム」をデザインすることなんですが、これはとても難しいことです」