そして2025年1月20日、大規模言語モデル「DeepSeek R1」がリリースされた。これが米国を中心に、世界的に大きな話題を呼んだ。

 開発費はわずか558万ドル(約8億6000万円)。これはOpenAIやAnthropicといった米国テック企業がAIモデルを開発する費用の約10分の1といわれている。しかも、性能もChatGPTのハイエンドモデルにひけを取らないというので(詳しくは後述)、「本当は、巨額の開発費用をかけなくても、少ないコストで高性能な生成AIを開発できるのでは?」「実は中国のAI技術は凄いのでは?」「これこそジャイアントキリング」と大きな話題になったのだ。

 もう一つ注目されたのが、DeepSeekが利用したNVIDIA製のGPUだ。米国政府は中国企業に対して厳しい輸出規制を行っているため、米国の企業が利用している同社のハイエンドGPU「H100」をDeepSeekは使うことができず、代わりに中国市場向けにスペックダウンした「H800」を使って開発を行っているといわれている。これにより、「NVIDIAのハイエンドGPUを大量に使わなくても、生成AIの開発ができるのではないか」と投資家の信頼がゆらぎ、1月27日にNVIDIAの株価が急落、NVIDIAの時価総額は史上最大の1日損失となる5930億ドル(約90兆円)も下落して「NVIDIAショック」とも呼ばれる事態になったのだ。とはいえ、DeepSeekもまたNVIDIAのGPUを使っているわけで、他のメーカーがNVIDIAに取って代わったわけではない。さすがにこれはマーケットの過剰反応だと思われる。

Web版は無料、APIもChat GPTのハイエンドモデルと同等の性能が、27分の1の価格で利用可能

 DeepSeek R1は、OpenAIの推論性能の高いAIモデルである「o1」(ChatGPT Pro)クラスに匹敵する能力を持ちながら、APIの利用料金が安価な価格設定となっており、個人開発者や中小企業でも気軽に導入できる環境が整っている。

 APIの利用料金は、100万トークン当たりで入力は0.55ドル、出力が2.19ドルとなる。例えば、o1はそれぞれ15ドル、60ドルとなり、約27倍だ。o1 miniでさえそれぞれ3ドル、12ドルなので約5.5倍ということになる。ちなみに、ウェブ版も提供されており、こちらはなんと無料で利用できる。

【NVIDIA株の時価総額90兆円を吹き飛ばした】中国の生成AI「DeepSeek」は何がスゴい?
同レベルのo1(ChatGPT Pro)と比べ、DeepSeekのAPI料金は27分の1に抑えられている 拡大画像表示
【NVIDIA株の時価総額90兆円を吹き飛ばした】中国の生成AI「DeepSeek」は何がスゴい?DeepSeek R1はOpenAIのo1に匹敵するベンチマークスコアをたたき出している 拡大画像表示