大きな政治的転換に取り掛かったアメリカと、矛盾が一気に噴出しているドイツ。「エネルギー政策における失敗」は国家を傾かせるインパクトを秘めていることを改めて教えてくれる。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、エネルギーの専門家が両国を比較して論評し、米大統領令のエネルギー関連項目についても詳細に解説する。(アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)
米国のお祭り騒ぎの陰で
ドイツの「政変」
昨年は選挙イヤーと呼ばれ、世界中で重要な選挙が実施された。その最大のイベントであったアメリカ大統領選挙は終盤で大きな盛り上がりを見せ、共和党の完勝という結果と、その後の政権人事、米国政策や外交などに関する報道で、年末まで国際情勢の話題の中心を占めていた。
そのせいか、欧州で起きた「政変」が、この米国のお祭り騒ぎの陰に隠れて目立たない形になり、これまでのところ日本でも注目されているとは言い難い状況だ。この「政変」とは、昨年11月6日、米国大統領選挙においてドナルド・トランプ氏の当選確実が伝えられた同じ日、ドイツで起きた。
この日、社会民主党(SPD)のオラフ・ショルツ首相は、連立を組む自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー財務相(当時)の罷免を、フランク=ワルター・シュタインマイヤー大統領に要請したことを発表したのだ。この要請は翌日に正式承認され、これによりSPD、FDPと緑の党による連立政権が崩壊した。
ことここに至るまでに、SPDとFDPは経済・財政政策などを巡って、度々対立する構図にあったようだ。もっとも、こうした状況を招いた背景には、現在のドイツ経済の深刻な状況がある。この主因の一つとして、エネルギー政策の実質的な失敗があることに、異論は多くないであろう。
昨年末近くの12月27日、シュタインマイヤー大統領は連邦議会の解散と、今月23日に総選挙を実施することを発表した。ドイツの解散総選挙は、メルケル政権が誕生した2005年以来、約20年ぶりとなる。期せずして、昨年の選挙イヤーの延長戦が展開される格好となったのである。