エネルギー動乱

石油元売り大手、出光興産の廃プラスチックを油に戻すケミカルリサイクル設備が12月に完工する。石油精製をメイン事業とする出光がケミカルリサイクルに本腰を入れる背景や、今後の展開とは。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、出光興産の宮岸信宏基礎化学品部部長を直撃。「都市油田」とも呼ばれる使用済みプラスチックの収集策や、事業化に向けた課題などについて語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

脱炭素対応でケミカルリサイクルを強化
廃プラを油化して化学品を再度生成

――出光興産は石油精製がメイン事業ですが、基礎化学品部とはどのような位置付けなのでしょうか。

 出光のメイン事業の石油精製は原油を輸入し、ガソリンなどを精製します。基礎化学品部は、石油化学品の原料であるナフサをエチレン装置にかけ、そこから多様な化学品を生成することなどを担当しています。石油精製会社である出光の化学部門の位置付けですが、サプライチェーンとして両者はつながっています。

 他の石油化学メーカーは、ナフサをエチレン装置にかけるところからスタートしますが、出光はナフサを作る上流を手掛けます。実は、出光の基礎化学品事業は燃料油事業と近く、一体運営しているような感じでもあります。後ほど説明しますが、廃プラスチックを再利用するケミカルリサイクルも石油精製会社の化学部門という特徴を生かしたものといえるのです。

――なぜ、ケミカルリサイクルに力を入れるのでしょうか。

 まず、現在の化学品のサプライチェーンを説明します。原油を石油精製装置にかけると、ナフサが得られます。そのナフサを分解して、基礎化学品を取り出し、さらに様々な誘導品に転換して、顧客に販売します。

 主用途がプラスチックです。そして、プラスチックを生成する過程で二酸化炭素を排出します。日本では、鉄鋼業界に次いで化学業界が二酸化炭素を多く排出しており、脱炭素が大きな課題です。

 さらに、ゴミとなったプラスチックはほとんどが焼却されたり、埋め立てられたりしています。焼却の際には、二酸化炭素を排出しますし、ゴミとしては海洋流出も大きな問題です。プラスチック原料を原油から作っている会社として、そうした社会課題に対応しないといけません。ケミカルリサイクルはそれら解決策の一つともいえるのです。

――ケミカルリサイクルの流れは。

 まず、ゴミとして捨てられていた使用済みプラスチックを回収します。そこから、出光の技術で、プラスチックを油化して油に戻します。その油を再び石油精製装置にかけます。つまり、廃プラを再び化学品の原料へと循環させていくわけです。

 ゴミとしてプラスチックが燃やされなくなるので、二酸化炭素の排出が減らせます。一度プラスチックを作れば、半永久的に循環させられるようなサイクルを目指したい。

 プラスチックから化学品の原料であるナフサを直接生成するのは非常に難しく、とてつもないコストもかかります。ですので、いったん油に戻すのが現実的な解です。すると、石油精製装置が必要になってきます。

 油に戻した後に、その油の精製設備を持っていて、さらにその先のチェーンを持っているのが出光の最大の強みといえるでしょう。それが、ケミカルリサイクルで出光が特徴を出せる部分です。

――2025年度に千葉にケミカルリサイクル施設を設けます。ケミカルリサイクル事業をどう進めていくのでしょうか。