回答のポイント:大手新聞社を取り巻く経営環境の変化を押える
目の前のクライアントだけではなく、クライアントを取り巻く経営環境にまで視野を広げて考察しましょう。
以下が解答例です。
この問題における「成長戦略」のゴールを定義する
私は大手新聞社の成長戦略を検討するに際して、「成長の指標」と「成長戦略の期間」を定める必要があると考えます。
成長の指標には売上や利益といった定量的な指標と、ブランド力の向上や社会貢献といった定性的な指標がありますが、今回は「売上の向上」をもって成長の指標とし、成長戦略の期間については「向こう5年間」で実行するものを検討します。
大手新聞社を取り巻く「経営環境の変化」を整理する
まずは、私が認識している主な環境変化について洗い出してみます。
<消費者の変化>
・若者を中心とした活字離れ
・紙(アナログ)から電子データ(デジタル)への利用意向の変化
<競合となるサービスの台頭>
・SNSを通じた有識者個人による情報発信の増加
・ウェブニュースなどの高品質な無料コンテンツの普及
・キュレーションサイト(特定のテーマやジャンルに絞った情報や新聞のように多様な情報を収集・整理したウェブサイト)の増加
・対話型の生成AIの活用による情報検索性向上
<新聞市場の再編>
・(上記に関連して)購読者の減少による業界新聞や地方紙の廃業
これらをまとめると、今日では情報産業のプレイヤーが多様化しており、一般人と新聞社の間における情報の非対称性は大きく解消され、基本的な情報は無料で手に入る環境となっています。
情報の信ぴょう性を武器に基本的な情報を提供するだけでは、人々が購読する理由にはなり得ません。
また、全国紙と同様のニュースを扱う発信力の高いプレイヤーがウェブを中心に台頭しており、それらのプレイヤーより安価で高品質な情報を提供しなければ人々は新聞を購読しないと考えます。
対話型の生成AIの活用も普及すれば、市場環境はより一層厳しくなるのではないでしょうか。
環境の変化を踏まえて、成長戦略を具体化する
私は、大手新聞社の事業を取り巻く環境を踏まえると、「未だに情報の非対称性が残る領域で」「新聞社という発信者としての信ぴょう性を活かし」「情報を必要とする人々に刺さるコンテンツを発信する」ことが、大手新聞社が生き残っていく方向性だと考えます。
そして、今後5年間で実行すべき成長戦略として、業界紙や地方紙などのターゲットの狭い新聞社と提携し、それらが提供するニッチな情報を大手新聞社の発信力を活かしてより広く販売することを提案します。
これにより大手新聞社は、業界紙や地方紙のコンテンツをもとに自社で蓄積した知見や専属記者の見解を加えることで、新たな読者層が求める情報を低コストで作成でき、コンテンツ力の強化で新規契約の獲得につなげることが期待できます。
また、この提携は業界紙や地方紙にとってもメリットがあります。
特定業界にフォーカスした業界紙や各地域に根差した地方紙は、既にニッチな情報を求めている人々に購読されていますが、営業力や知名度は大手新聞社に劣ります。
そこで、大手新聞社の地方面やウェブ版にコンテンツを提供することで、新規の読者との接点創出を図ることができます。
以上です。ありがとうございました。
面接官からの質問に答える
──業界紙や地方紙は同じ新聞業界の競合に該当し、提携は難しいのではないでしょうか?
業界紙や地方紙は、各専門分野や地方における信頼は醸成できている一方で、広く一般における認知度が低いことが弱みと考えました。
また、先ほどの環境の変化を踏まえると、購読者の減少によって経営基盤も脆弱となっている企業も少なくないのではないでしょうか。
全国紙の発信力を活用することは、業界紙や地方紙にとっても十分魅力的であり、提携は可能だと考えます。
──同業他社との提携以外に、大手新聞社が実行できそうな成長戦略の方向性は考えられますか?
新聞社が球団やアミューズメント施設の運営を行っている事例もあると思います。
このような、新聞事業と親和性のある事業領域で新規事業を立ち上げることで、新規事業と本業を共に発展させていくような成長戦略の方向性も描けると考えます。
──10年後などのより長期的な環境変化を見据えると、さらに検討すべき事項として何がありますか?
今後、デジタル化のさらなる発展が予想され、欲しい情報を誰でもすぐに入手できるような世の中では、新聞社の既存事業の競争力は低下していくと考えます。
したがって、業界内での成長にとどまらず、事業環境の変化に応じた新たな柱となる事業の創出に取り組むことが必要だと思います。
(本稿は『問題解決力を高める 外資系コンサルの入社試験』から一部を抜粋・編集したものです)