社長の話をよく聞いていると、低収益事業の説明の際に「見極めた」とは言っていないことに気づかされます。そうではなく「見極めを加速する」と言っています。つまり、楠見社長としては「テレビは課題事業(なくなる)だと思うのだけど、それを新しく分社化される会社の社長に2025年度中に検討してもらい、決める」と話しているのです。

 ここで「目標が明確だが手段があいまいに見える」と話した意味の説明をします。楠見社長は「これまでの事業会社制を見直す」ことを通じて収益構造を変革するとおっしゃっています。

 事業会社制とはテレビとか美容家電とか洗濯機などのひとつひとつの事業をあたかも小さい会社のようにとらえて、それぞれの事業トップに社長と同じ責任を負わせる経営手法です。これは経営の神様と呼ばれた松下幸之助がパナソニックに植え付けたDNAのような経営手法でもあります。

 松下幸之助のエピソードにこういう話があります。ある工場(当時は事業部と呼称)が3年間赤字を続けている。それを見た幸之助が顔を真っ赤にして事業部に乗り込んで「もうお前のところにはカネは貸せない」と怒るのです。そして実際に本社へと金を引き上げてしまいます。事業部長は真っ青になって銀行を回って支店長に頭を下げて運転資金を借り入れます。こうやることで幹部ひとりひとりが社長の責任を実感するように育つのです。

 事業会社制は下が育つという点ではいいのですが、HD経営のように経営資源をどこかに集中し、不要なビジネスからは撤退するといった決断は下しにくいという欠点があります。たとえばテレビ事業のトップはテレビ事業を売却するという発想は浮かびません。そこで事業会社制をやめて、「白物家電も黒物家電もひとつに集約する」という「手段」をとることで、ある事業には資源を投資するが、別の事業は売却するといった意思決定ができるようにしようというのが今回の構造改革の考え方です。

決算会見で露呈した
「解散・再編」の前途多難

 さて、今回パナソニック株式会社を分社化して誕生する「スマートライフ社」は、課題事業のテレビと調理家電、再建事業のその他家電を統合した会社ということになります。いわゆる「負け犬事業」と「問題児事業」をひとつにまとめて、どうやって再建するのでしょうか。