それについては「ジャパンクオリティーの製品を、世界で戦えるチャイナコストで実現すること」が鍵だと楠見社長は明言しています。パナソニックの家電事業が抱えている課題は高コスト体質と変革スピードの遅さだという前提があります。
これまでの事業会社制にはもうひとつ欠点があって、それはどうしても売り上げを出さない間接部門のコストが膨らむことです。一つひとつの事業をあたかもひとつの会社として扱うので、どの事業部もスタッフを抱えてしまうのです。
その欠点を構造改革で変えるのが今回の「手段」ということになります。新しい「スマートライフ社」では間接部門や販売部門での人員の最適化を進め、製造・物流・販売拠点の統廃合を行い、生産性の向上を行う方針です。それを「やりきる」ことができれば、家電事業も再建できるし、HD全体では2028年度に3000億円以上の収益改善が見込めると言っているのです。
そしてここが一番重要な点です。この構造改革は、ちょっと見ではリストラ策に見えます。重複する人員を削減してコストを減らす部分は確かにその通りです。しかしそれはジャパンコストにまでは下げられても、チャイナコストにまではコスト構造を下げることにはつながりません。
ではどうやってそこに到達するのか。パナソニックの記者会見ではAIを含むDXが鍵になると明言しています。実はここが大企業の構造改革で一番難しい。というのはAIを含むDXで生産性を上げるには、システムの導入だけではなく、権限移譲が必要だからです。
物凄く単純化してお話しすれば、AIをブレーンに幹部社員一人ひとりが自分で意思決定をするようになれば、変化のスピードも速くなりますし、これまで必要だったスタッフを抱えるコストも激減します。これは競合する中国メーカーに共通する組織上の特徴です。
一人ひとりの幹部社員に責任と権限が大幅に移譲されていて、そこで意思決定が迅速に行われるからこそ生産性が高い。この構造にある中国メーカーのチャイナコストに挑戦できるかどうかが、楠見社長のプレゼンテーションに書かれていた「収益改善効果」の鍵を握っています。