パナマ運河の戦略的重要性と長和グループの立場
トランプ大統領は1月20日の第2期就任後すぐに、米国が建設し、その後パナマ政府にその管理権を移譲したパナマ運河の港湾を、「中国企業」が運営していることは問題だと発言。「中国政府が意図すれば、中国企業はそれに従わざるを得ず、そのような企業にパナマ運河の港湾運営を任せることは大変危険なことであり、米国の国益に見合わない」と述べていた。そしてパナマ政府に対して、このままでは管理権移譲時に結んだ協定に従い、米国は「兵力を講じてでも」同運河の管理権を取り戻すと宣言していた。
19世紀終わりにパナマ運河が建設されるまで、大西洋から太平洋(あるいはその逆)に向かう船はぐるりと南米大陸を南極大陸側へと迂回しなければならなかった。それが中米に位置するパナマを東西に貫くように運河が建設されると大西洋と太平洋がつながり、米国の東西岸間、あるいは欧州と東アジアを結ぶ航路は、時間的にもコスト的にも大きく削減されたのだ。
今では世界的な海運貿易の6%がパナマ運河を通って行われており、そのうち中国の商船運行は21%を占めているという。
長和グループは同運河にある5つの港湾のうち、大西洋側と太平洋側それぞれに位置する港湾2つの運営権を1997年に取得、さらにその25年間の期限が近づいた2021年に契約更新を行ったばかりだった。実際の運営は同グループの子会社でシンガポールに拠点を置く「和記港口」が行っていたが、トランプ大統領がそれらすべてを「中国企業」と呼んだことは中華圏に少なからずの波紋を生んだ。
というのは、長和グループは香港の不動産王・李嘉誠氏が率いる、世界的なビジネスを展開するコングロマリットだからだ。
「ビジネスの神様」李嘉誠の人生とビジネス戦略
李氏は第二次世界大戦後に中国広東省の潮州から香港に流れ着いた難民の一人だったが、「ホンコンフラワー」と呼ばれた造花工場から身を起こし、1950年代に不動産業に乗り出した。文字通り裸一貫から香港のトップ富豪にまで上り詰めたことで、かつては「香港ドリーム」の立役者として広い尊敬を受け、「ビジネスの神様」とか「李超人」(スーパーマン・リー)と呼ばれた。
李嘉誠氏はその立身出世ぶりだけではなく、特にそのビジネスセンスに定評がある。
香港の主権返還前の1990年代初めにはすでに中国に進出し、北京の天安門に近い目抜き通りで「北京東方広場」なる大型不動産プロジェクトを手掛け、中国人の度肝を抜いた。明らかに中央政府のお墨付きを受けたこのプロジェクトを皮切りに、中国各地で不動産プロジェクトを展開。1990年代中盤には、「北京市の土地開発権はその3分の2を李氏が握っている」という人もいた。そんな噂を現地の人たちが信じるほど、彼は経済成長に湧く中国でも特に注目される「時の人」だったのだ。