米国の投資顧問会社「モーニングスター」のアナリストは長和グループの全港湾資産額を105億ドルと評価しており、今回の売却はそれを大きく上回る額で合意した、と香港メディアは伝えている。

 米「ニューヨーク・タイムズ」も、このニュースについて「解決不能に見えた苦境をエレガントに脱した」と称賛する米国人識者の声を掲載。その後、英「フィナンシャル・タイムズ」は、取引関係者の証言として、交渉の場にはすでに引退した李嘉誠氏自らが乗り込んだと報じた。また買収発表の翌日、長和グループの株価は1年半ぶりに22%も上昇、1日の値上がり幅としては27年ぶりという好反応を示したのである。

「売却は半年前から話し合っていた。完全にビジネス目線の売買でしかない」とする公的な説明を信じる者はほとんどいない。まさに「スーパーマン・リー」の面目躍如だった。

中国政府の猛反発と長和グループの対応

 しかし、中国政府(共産党)にとっては面白くなかったようだ。

 売却発表を受けて、まず中国政府の香港出張機関である中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)傘下の香港メディア「大公報」が13日、「甘く見るな、惑わされるな」と題した署名記事を掲載した。

 記事は、まず「それは本当にビジネス上の判断だろうか?」と疑問を呈し、「米国メディアが明らかにした内幕」と前置きしつつ、「(米国の資産運用会社である)ブラックロックのCEOはトランプ氏と親しく」「買収協議中にもホワイトハウスを訪れていた」と強調。「ブラックロックは(今回の買収によって)世界三大港湾業者となり」「中国の貨物船の寄港コストを引き上げ、中国の船会社の企業シェアを潰す可能性もある」と述べた。そして、長和グループの港湾売却を、「利益追求、不義の行為であり、国家の利益と国家の正義を無視し、中国国民全体を裏切り、売り渡した」と罵っている。

 この記事は同日夜には、中国共産党の中央香港マカオ工作弁公室ウェブサイトに転載され、さらに翌朝には中連弁のサイトにも掲載された。

 続いて15日朝には「大公報」が2本目の批判記事を掲載した。「いかなる時にもどのような場や状況にあっても、偉大な企業家は決して冷血で投機的な利益追求者ではなく、熱く背筋を伸ばした愛国者でなければならない!」さらに「ビジネスの場は戦場だ」と主張している。

 この記事では、精密機器の「ファーウェイ」やEVメーカー「BYD」、EV電池の「CATL」、ドローンメーカー「DJI」などが米国による制裁リストに名を連ねたことを「栄光のリスト」と見なしており、「偉大な道を目指して奮闘、勝利した」などと持ち上げた。

 この2本の記事と、中連弁や中央香港マカオ工作弁公室のこれみよがしな動きは、中国共産党が長和グループに売却協議の再考を迫るものであるのは明らかだった。最初の記事がウェブサイトに転載されるや、グループ関連株は急落、1日のうちに長和グループは208億香港ドルを失ったと大きく報道されたが、売買によって得られる収益の190億ドルには遠く及ばない。

 ただ、売却プランはまだ「初歩合意」の段階であり、実際には今後ブラックロックを始めとする企業グループ内部での審議や調査に入り、一方で長和グループは港湾それぞれが所属する国々の認可を取得し、またグループ株主の同意を受けて初めて買収を完了することができる。中国当局は株式市場を使ってそれに「揺さぶり」をかけているのだ。

 長和グループ側は、本稿執筆時点では表面的には無言を貫いている。長和グループがいかに応じるのか、人々は注意深く見守っている。