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3DプリンターとGoogle Glassの共通点とは?――未来の技術トレンドを確実に予測する方法

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第5回】 2013年5月21日
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 ITを例に取りましたが、他の分野でも単調に技術は進化したわけではなく、多様な技術が開発された時期があるはずです。そうした時代の技術は20年近く経つと宝の山に変わることもあります。

技術競争=特許出願競争

 また、技術予測をするうえでは、複数企業で熾烈な開発競争が起きている時期を知っておくことは重要です。例えば、この連載の前回では不揮発性メモリ向けデータベースを取り上げましたが、既存の(揮発性メモリ向け)RDBMS (関係デーベース管理システム)の技術開発が一番熾烈だったのは1995-2000年です。

 当時のRDBMS御三家、つまりオラクル、IBM、サイベースは熾烈な性能競争をしており(いまのRDBMS御三家はオラクル、IBM、マイクロソフトとなるでしょう。ただしMicrosoft SQLサーバは当初、サイベースからRDBMSに関する技術ライセンスを受けて開発されています)、その当時はRDBMS内部処理を効率化する諸技術に関する特許が数多く出された時代です。いいかえると15~20年後のいま、RDBMSの効率化に関わる重要特許も、その有効期間が切れはじめている状況です。

 つまり、御三家がどんな特許ライセンス契約を結んでいたかはわかりませんが、少なくともPostgreSQLやMySQLに代表されるオープンソース系のRDBMSには大きな恩恵があるでしょう。というのは、これまで特許により、手を出せなかった技術も自由に使えるからです。

 またジェネリック医薬品ではないですが、特許切れ技術を使うことを前提に新規参入する商業ベンダーも表れるでしょう。著者の実感としても、ここ数年でRDBMS関連ベンチャーの数は増えているように感じます。

 なお、関係データベースを発明したのはIBMの研究者Edgar F. Codd博士ですが、当時のIBMは関係データベースを過小評価していたのか、製品化は遅れますし、そもそも関係データベースに関わる基本特許を出願しませんでした。だからこそオラクルやサイベースなどの他社が関係データベースに参入できたという背景は否定できません。

 だからといって著者は特許が不要とはいいません。というのは特許は、技術の普及や発展の妨げになることがある一方で、特許による技術の独占やライセンス収入がなければ、先行して研究開発するインセンティブが生まれませんから。実際、膨大な開発費がかかる医薬品では特許によって先行者受益が保護されなければ、誰も研究開発をしなくなり、医療は進まないことになります。

未来予測は過去を学ぶこと

 技術の世界では「巨人の肩に乗る」という言葉があります。最新にみえる技術も、過去の技術を元にして生まれています。逆にいえば過去の技術を知らなければ最新技術も生まれません。最新技術を予測するという観点から、過去の特許を眺めてみるのも有益です。実際、新しい技術のヒントは過去にあることは多いですから。

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佐藤一郎
[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。

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分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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