世間では孫氏がやることは、コロコロ変わると思われているようです。なぜなら元々Yahoo! BBや携帯キャリアの会社なのに、この10年間は半導体に参入したかと思えば、投資ファンド事業で大赤字を出しても「2兆、3兆円は誤差」と言いのけ、はたまた最近はAIへの傾注が目立つからです。
しかし、1990年代後半~2000年代前半のソフトバンクで孫社長の秘書をしていた筆者からすると、実は孫氏の考えは一貫しています。それは、「新しいテクノロジーの波が来る時、その発展には二段階ある」ということです。
とてもざっくり解説すると、第一段階がハードの発展、第二段階がソフトの発展です。そしてこの二段階において、その時のトップ企業同士が結び付くことで、その時代におけるテクノロジーの覇者が決まる必勝セオリーがあるのです。
典型的な好例が、インテルとマイクロソフトです。インテルはパソコン用の半導体企業で、「インテル、入っている」というフレーズをパソコンのCMで聞いたことがある人は多いでしょう。最近までインテルの市場シェアは8割を超える圧倒的な覇者でした。
マイクロソフトは、パソコン用のOS(基本ソフト)、Windowsの会社です。Windowsのシェアは7割超、これもまた圧倒的であることは言うまでもないでしょう。この2社が、「ウィンテル連合」として長らく、マーケットで大きな支配力を発揮していました。
この、「テクノロジー二段階発展論」に基づいたソフトバンクグループの戦略では、例えば2006年にボーダフォン買収によって携帯キャリアに参入し、まずiPhoneの独占販売を行うことでシェアを伸ばした後(ハードを押さえる)、さまざまなソフトウエア・サービスを展開してきました。サービスの中にはPayPayも当てはまり、国内バーコード決済市場でシェア7割を超えるまでに成長しています。
つまり、今年に入ってからの孫氏の素早い動向は、AI時代のウィンテル連合に当たるハード×ソフトのグループを構築しようとしているのです。
一方のマスク氏も、AI陣営づくりを急いでいます。マスク氏は、ソフトバンクグループがアンペアの巨額買収を発表したのとほぼ同じタイミングで、マスク氏率いるAI企業「xAI」がマイクロソフトらとの共同プロジェクトに参画すると発表しました。データセンターなどのAIインフラに300億ドル(約4兆5000億円)規模の投資をするという内容です。
また、xAIは、オープンAIのChatGPTに対抗すべく「Grok」という生成AIを投入しています。マスク氏は、「Grokは他社の類似製品より優れている」と主張していますが、シェアでいえばChat GPTの独走を止めるほどでは全くありません。