ソフトバンク陣営とマスク陣営に
“等距離外交”を仕掛けるグループ
振り返ると、孫氏が英アームを約240億ポンド(当時のレートで約3.3兆円)で買収したのは2016年のことでした。この当時はまだ、AIがこれほど急成長するとは、予想されていなかったでしょう。アームのアーキテクチャはカスタマイズ性が高く、消費電力が少ないのが特徴です。この特徴こそ、AIが本格到来して以降もアームが半導体分野において最重要プレイヤーである理由です。この点ではソフトバンクグループがリードし、AI時代のハードの大元を押さえていると言えるでしょう。
また、アルトマン氏率いるオープンAIがソフトバンク陣営にいることは大きな強みです。今後の事業化の展開は読みきれないところがありますが、現時点では生成AIで頭一つ抜きん出ていることは間違いありません。さらに今回アンペアも陣営入りしたことで、孫氏のテクノロジーの二段階発展論における、ハードとソフトを押さえつつあると言えるでしょう。
さて、実はソフトバンク陣営とマスク陣営の他にもう一つのグループがあると述べました。この二つの陣営の両方に“等距離外交”を仕掛けているグループは、エヌビディアとマイクロソフトです。エヌビディアは両陣営に半導体を供給する予定です。
マイクロソフトはオープンAIの主要株主で、クラウドサービス上の独占的な利用契約も提携しています。それと同時に、xAIともプロジェクトを進めているのです。こうした等距離外交は、不確実な未来に対応しつつ生き残るためには欠かせない、巧妙な経営姿勢だと思います。
AI時代の覇者をめぐる三国志――ハードとソフトを押さえる理論でいけば、現時点でリードしているのは孫氏でしょう。しかし、この先どうなるかはまだ分かりません。
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最後に、今回の巨額買収で筆者が思い出した出来事があります。それは、孫さんの秘書としてプレゼン資料、パワーポイントのスライドを毎晩のように作っていたことです。
孫さんは当時、会議にホワイトボードをフル活用していました。そして、自ら書記となってボートにまとめた内容を、さらにスライドにまとめるよう私に命じていました。
なぜ、孫さんは朝から晩までの会議で自ら書記をし、ホワイトボードのプリントアウトにこだわっていたのか。そうして何十枚も積みあがった印刷物をスライドにしてストーリーを再構成し、プレゼン資料にさせたのか。孫さんから学んだ成功するプレゼンの極意は、『孫正義がブチギレた「仕事ができない人」の特徴、プレゼン資料で即バレ!』で詳しく解説しています。