江頭さんの芸はいつもギリギリをやや超えるくらいのところを攻めていくので基本危ういが、騒動を見てすぐさま永野さんに動画を通じて謝罪したところから判断するに、相手にとって「バラエティの名を借りたハラスメントになっていないか」を本人が常に注意深くジャッジしようとしている姿勢が見受けられる。

 今後もさじ加減を誤って行き過ぎることはいくらかあるだろうが、個人的には本件から一般論を演繹するに、被害者になりえる誰かに対しての配慮や誠意は、ぜひ見習いたいところである。

日本エンタメの大きな転換点に

 実は、今回の騒動が日本のエンタメにとってひとつの大きな転換点になるかもしれないと見ている。

 最近のテレビ離れの主要因のひとつとして、「テレビがつまらなくなった」がよく挙げられる。娯楽の多様化やメディアの細分化によって、テレビは求心力や存在感を弱まらせているのはたしかである。

 つまらないかつまらなくないかはわからないが、テレビは刺激が薄く毒のないものになりつつあるのはたしかである。これが昨今勢い著しいポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)のせいだと言われている。

 ポリコレを気にするせいでできることがどんどん削られていき、かくして完成するテレビ番組は無味無臭の白湯のごときものとなる。飲んでみて一通りの渇きは癒えるが、ガツンとくるものがない物足りなさである。それで、より自由で刺激のある場としてネット番組やYouTubeチャンネルが受け手・作り手の双方から求められていった。

「ポリコレが云々」と言われて久しい現在なのだが、それなりの数の人が「度を越したポリコレ邪魔くさし」と認識を共通していつつも、みんなでガヤガヤ言っているだけで、雑多なままであった。

 しかし今回の騒動によって、雑多だった「ポリコレ自重しろ」の声が、くしくもひとまとまりになって聞こえてきた。これほど多くの人がポリコレについて言及した騒動はあまり類を見ない。

 TBSもここまで擁護されるとは思わなかったに違いない。「度を過ぎたポリコレの打破」が民意と想定しての番組作りも、今後は視野になってくるかもしれない。