「いつも浅い話ばかりで、深い会話ができない」「踏み込んだ質問は避けて、当たり障りのない話ばかりしてしまう」上司や部下・同僚、取引先・お客さん、家族・友人との人間関係がうまくいかず「このままでいいのか」と自信を失ったとき、どうすればいいのでしょうか?
世界16カ国で続々刊行され、累計26万部を超えるベストセラーとなった『QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす』から「人生が変わるコミュニケーションの技術と考え方」を本記事で紹介します。

自分の話ではなく、アイデアを交換する
私たちが、相手の話に割って入り、自分のことを話してしまうのは驚くべきことではない。
それには、とても論理的な説明がある。つまり、そうすることは気分がいいのだ!
研究によれば、私たちは話をしているうちの6割で、自分自身について話している。XやフェイスブックなどのSNSだと、その数字は8割に跳ね上がる。
人間にとって、自分の悩みや喜びを誰かに話すことほど楽しいことはないようだ。
私たちは自らの成功を饒舌に語り、不満を話のネタにする。主役は自分自身である。私が、私の、私は─。
これには確固とした生物学的根拠もある。
研究によれば、自分のことを話すこと、つまり頭の中の考えを話したり、個人的な情報を誰かに伝えたりすることで、脳内化学物質であるドーパミンが分泌され、私たちをうっとりとした気分にさせることがわかっている。
この現象を調べたハーバード大学の実験がある。
まず、被験者195人に自分の意見や性格の特徴について話し合い、次に他人の意見や性格の特徴について話し合うように依頼し、fMRIスキャン(脳の活動を測定し、感情的な反応があるときに脳内で何が起きているかを記録できる装置)を使ってそのときの脳波を測定した。
その後、被験者が自分についての話をしていたとき(自己への注目)と他人についての話をしていたとき(他者への注目)の神経活動の違いを調べた。
その結果、脳の3つの領域の活動状態が際立っていたことがわかった。
予想通り(過去の研究の通り)、自己開示(自分について話すこと)は、自分について考えることに関連すると考えられている内側前頭前皮質の活動レベルを高めた。
しかしこの実験では、側坐核と腹側被蓋野という、これまでこの種の思考とは関係がないと考えられていた2つの領域も活性化していたことがわかった。
どちらも中脳辺縁系ドーパミン系の一部で、セックスやコカイン、おいしい食べものなどの刺激と結びつく報酬反応や快感に関連している。
自分の話をするときにこれらの脳の部位が活性化するという事実は、自己開示や自分の経験談、自分自身について話すことが、セックスやドラッグ、おいしい食べものを口いっぱいに頬張るくらいに楽しいものであることを示唆している。
他の話題がどんなに興味深くても、人が自分のことを話したくなるのも無理はない。
自分のことを話すのは単純に楽しいし、相手に質問をするよりも、直接的なメリット(ドーパミンがもたらす強い高揚感!)を与えてくれるのだから。
ソクラテスは、自分の話はそれほど面白くないと言うだろう。
彼にとって、真に実のある豊かな会話とは、他人の考えや、信念や出来事を探求することで得られるものであった。
賢くなることは共同作業であり、他人の心こそ、新たな発見ができる場所なのだ。
私が教わった哲学の教授は、講義で、「意見」と「アイデア」を区別していた。
彼は、意見は誰かのものであると言った。意見とは、誰かの見解である。
それが疑問視されると、間接的ではあるものの、自分自身が疑問視されたように感じる。
一方、アイデアは誰のものでもない。
アイデアとは文字通り、アイデア〔訳注:思いつき、考え、発想など〕である。
そこには議論の余地がある。だから遠慮なく疑問をもち、異議を申し立て、却下できる。
アイデアを交換すれば、対等な立場で会話ができる。お互いの考えを交換し、質問をし、ともに賢くなっていける。
(本記事は『QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす』の一部を抜粋・編集したものです)