「主演じゃない」と言い切る覚悟…北村匠海が朝ドラで貫く“静かな主役力”【写真ギャラリー付き】

完成された「やなせたかしのパブリックイメージ」
そこに至るまでを演じる難しさ

――有名なやなせたかしさんをモデルにした人物を演じるうえでどこに気を遣っていますか。

 まず、やなせさんが書かれたものはたくさん読んで、実際にお話しされているインタビュー動画なども見て研究しました。ただ、そこで知るやなせさんは、ある程度のキャリアを経たあとのやなせさんで。

 このパブリックイメージは、それまでの様々な体験によって作り上げられたものです。僕はそこに至るまでの嵩を演じないといけない。やなせさんが『逆転しない正義』を描くに至るまでを試行錯誤しながら演じていきたいと思っています。

『逆転しない正義』をはじめとして、やなせさんの作品にはいまこそ伝えたい普遍的なメッセージがたくさんあります。やなせさんを自分のなかに投影して、お芝居を通してそれをお伝えできれば。

 ただ、ドラマの主人公はあくまでのぶで、主演であり座長であるのは今田美桜さんです。明るくて活発なのぶに引っ張ってもらうことで、嵩が『アンパンマン』誕生までこぎつける、その物語を視聴者の皆さんにいかに楽しんでいただけるかを考えています。

――のぶと嵩の関係性に重点が置かれているんですね。

 嵩を演じるに当たってやなせスタジオに行きました。そこで聞いた様々なお話の中で、やなせさんによる妻・暢さんの立て方が印象に残りました。すごく可愛らしいお話です。

 やなせさんは果物(柑橘の小夏)の剥き方を、暢さんといるときは彼女の剥き方に合わせていて、いないときは「ほんとはね、高知の独特の剥き方があるんだけどね、彼女があんなに幸せそうに剥くからぼくは一緒に剥くんだ」とやなせさん独自の剥き方をしていたそうなんです。

 その一歩引いたやさしさがすてきだと思います。暢さんがこんなに笑顔だったとか、あんなに悲しそうだったとか、つねに暢さんのことを見つめていたそうで、そういう話を聞いてとてもあたたかい気持ちになりました。

 果物のエピソードはドラマに出てくるかわかりませんが、こういう雰囲気が芝居から出せたらいいなと思っています。