羽田空港アクセス改善を通じた
沿線価値の向上に期待
だが、それだけでは東急が新空港線を整備する理由の説明としては不十分だ。沿線を中心に幅広い事業を展開する東急にとって、鉄道事業は沿線価値を生み出すエンジンだ。
1980年代以降、複々線化などの輸送力増強、地下鉄との直通運転拡大を進めてきたが、近年は特に鉄道ネットワークの質的な向上に力を入れている。東海道新幹線とのダイレクトアクセスを実現した東急新横浜線に続く取り組みが、空港アクセスを改善する新空港線というわけだ。
しかし、東急沿線と羽田空港は「壁」で隔てられている。京浜間の二大幹線であるJR東海道線(京浜東北線)と京急は、品川~横浜間の蒲田、川崎、鶴見などの主要ターミナルが別個に存在する。そのため、東急線から京急線への接続は多くの場合、2回以上の乗り換えや長距離の歩行が必要になる。
そこで蒲田と京急蒲田をつなぐことで、東急線沿線と京急を直結する。そういう意味で「新空港線」と「蒲蒲線」は話者の立場による呼び方の違いにすぎず、表裏一体の関係なのである。
東急の発表から具体例を見てみよう。中目黒~羽田空港間は現在、恵比寿または渋谷で山手線に乗り換え、品川から京急が最短で、所要時間は45~50分だ。地下鉄日比谷線で東銀座に行き、都営浅草線から京急直通の羽田空港行きに乗る手もあるが、1回の乗り換えで済む半面、1時間以上かかり、運賃も高い。
それが新空港線の開業後は、中目黒~京急蒲田間は現在の約36分が約23分へ約13分の短縮。京急蒲田から羽田空港まで約10分、乗り換え時間を約5分とすると、乗り換え1回で所要時間は40分程度になる。
自由が丘から羽田空港はさらに遠い。横浜経由の京急利用という1回乗り換えルートや、蒲田から京急蒲田を徒歩連絡する最短距離ルートはあるが、大井町で京浜東北線に乗り換え、品川に戻って京急に乗るルートが現実的だ。こちらの所要時間は2回の乗り換えで45分程度。これが新空港線開業後は前述の前提であれば1回の乗り換えで約40分程度になる。
新空港線はさらに京急空港線大鳥居駅付近まで延伸し、東急と京急が直通運転する構想も存在するが、両社の線路幅や車体寸法などが異なることから、実現の見通しは立っていない。今回の新空港線構想は京急直通という理想を一旦棚上げし、現実的な範囲に絞ることでようやく動き出したものなので、現時点でそこまでの期待はないだろう。