スイートルーム代38万円」は
内部統制上「重要な金額」なのか?

 まず、フジテレビの「スイートルームの会」問題の具体的な内容を確認しておきましょう。

● 2021年、フジテレビの編成制作局のB部長(当時)が主導
● タレントU氏や中居正広氏との「番組打ち合わせ」を名目に開催
● 実際は「楽しい飲み会がしたい」という個人的要望に応えるための会合
● 中居氏が希望した女性アナウンサーを含む不適切な人選
● スイートルーム代、約38万円を「番組のロケ等施設使用料」と虚偽申告
● 会合ではセクハラ行為など不適切な行為があった

 ※第三者委員会の調査報告書より

 一見して明らかな不正行為と不適切な行動。しかし、これが内部統制上の「重要な不備」として評価されるかどうかは、また別の問題なのです。

 内部統制報告制度(J-SOX)では、内部統制の不備のうち特に重大なものを「開示すべき重要な不備」として評価し、開示する必要があります。

 この判断基準は主に次の二つです。

1. 量的(金額的)重要性

 会社規模に照らして決算書の虚偽表示の金額的な大きさが重要と判断される場合

2. 質的重要性

 金額が小さくても、その内容が問題視され、潜在的な影響が大きいと判断される場合(例:経営者による不正や法令違反)

 フジテレビのケースに当てはめて考えてみましょう。

 フジテレビの親会社、フジ・メディア・ホールディングスの2024年3月期最終利益は約370億円。これに対してスイートルーム代38万円は最終利益のわずか0.001%ほどの金額です。

 仮に同様の問題が100件発生したとしても、影響額は最終利益の0.1%程度にとどまります。単純な金額比較では、とても「重要」とはいえないのです。

 質的重要性についても、現行の監査基準では主に「経営者による不正」が重視されます。今回の事案は編成部長による経費の不正使用が中心であり、経営者の会計不正というよりは経営者のコンプライアンス違反の側面が強いため、内部統制上の質的重要性には該当しない可能性が高いです。

 つまり、会計・監査の技術的な視点からは、「開示すべき重要な不備なし」という結論になる可能性が高いのです。