「専門的判断」と「倫理観」に
大きなギャップ

 ここで、公認会計士としての専門的判断と、一社会人としての感覚の間に大きなギャップが生まれます。

 影響力のある編成幹部が、虚偽の経費申請を行い、不適切な会合を開き、その中でセクハラ行為まで発生している。それなのに「内部統制上は特に問題なし」という結論が導かれる可能性がある。

 これこそが、現在の内部統制報告制度の限界を示しています。

 本来、内部統制には次の4つの目的があるとされています。

1. 業務の有効性と効率性
2. 財務報告の信頼性
3. 法令等の順守
4. 資産の保全

 フジテレビの問題は、少なくとも「法令等の順守」と「資産の保全」の2つの目的を損なっています。しかし、現行のJ-SOXでは「財務報告の信頼性」、特に金額的な側面に焦点が当てられているのです。

 この「制度の意図」と「社会的期待」のミスマッチこそ、専門的な基準と社会常識の間の溝を生み出しているのではないでしょうか。

会計士は「監査範囲外」のコンプラ違反を
見過ごさなければならないのか

 フジテレビ第三者委員会報告書を読むと、「スイートルームの会」という表面的な事象の背後に、男性中心で同質性・閉鎖性の高い組織風土や人権意識、コンプライアンス意識の欠如など、根深い組織文化の問題があることが見えてきます。

 公認会計士としての専門的見解では「38万円だから重要性がない」と判断される可能性がありますが、社会通念に照らせば、「そんなコンプライアンスのかけらもない会社に投資して大丈夫か?」という疑念を抱くのは当然のことです。

 自分が会社に出資したお金がコンプライアンスを無視した活動に使われていることは、その活動を応援していることになりかねず、非常に問題です。

 ここで一つの重要な問いが生まれます。

 公認会計士の監査では、コンプライアンスや企業倫理の監査まで求めるべきなのか。

 公認会計士は会計の専門家であって、ジェンダー問題や人権侵害の専門家ではありません。そこに監査責任を求めれば、また別の「期待ギャップ」が生まれかねません。

 しかし、明らかなコンプライアンス違反や倫理観の欠如を「監査範囲外」として見過ごすことは適切でしょうか?