その後も新電力での赤字に歯止めはかからず、2019年春のバンクミーティングでの金融機関への返済猶予要請、2019年9月期決算の債務超過転落、ほとんど死に体となった状態でのPinTへの幹部移籍を巡る係争、2020年末の全従業員解雇と続くが、これらはもはや枝葉末節の話だ。

「そもそも……パネイルクラウドにはAI開発に必須なPython、Rubyなどのプログラミング言語が使われていない。あれは本当にAIと言えるのか?」。筆者は、関係者が漏らしたひと言が忘れられない。民事再生法の申請後、「パネイルクラウド」についた資産価値は簿価2円だった。

夢破れて倒産した
ユニコーン候補の悲哀

 企業倒産はいくつかの類型をなしているもので、パネイルの倒産にもある種の既視感がある。

 期待のユニコーン候補が夢破れた事例としては、全自動衣類折り畳み機のseven dreamers laboratories株式会社(2019年4月破産、負債約22億5200万円)がある。

『なぜ倒産 運命の分かれ道』書影『なぜ倒産 運命の分かれ道』(帝国データバンク情報統括部、講談社+α新書)

 代表が自信たっぷりに語る明快な成長戦略やプレゼンでの口上の見事さ、一転して信用不安が増大したときの経営幹部による債権者への誠意に欠ける言動は当時のW・A社(主力のソフトウェアの完成度が低く価格以外の競争力に乏しく、実質破綻状態に陥ったがなぜかファンドの資金導入に成功し法的整理は回避、ただし社長はその後解任)を想起させる。

 また、電力価格高騰のあおり、という点では株式会社F-Power(2021年3月会社更生法適用申請、負債約464億円)が記憶に新しい。天翔けるユニコーンと周囲がもてはやすのは簡単だが、当事者はもう少し地に足をつけて、着実な成長を目指すべきではなかったか。もっともそれではもはやユニコーンとは呼べないが……言うは易く行うは難しだ。

 この間、ステークホルダーがどのように関与したのか真相は闇の中だ。正しい方向へ誘導するより、サクセス・ストーリーを演出し、その利益を分かち合うためのある種の御膳立てがなされていたともいう。そう考えると、レールに乗せられた者の悲哀を感じなくもない。

沿革

2012年    12月、株式会社パネイル設立。太陽光発電事業者の営業代行、ポータルサイト運営、部材調達代行サービスなど
2015年    秋以降、全国に販社を設立、自ら電力小売り事業を手がける
2016年    電力需給管理基幹システム「Odin」(のちのパネイルクラウド)サービス開始
2018年    日本卸電力取引所の電力価格が急騰、東京電力エナジーパートナーとの合弁会社「PinT」設立
2019年    金融機関に債務の元本返済猶予を要請、債務超過転落
2020年    12月、全従業員解雇
2021年    5月、東京地裁へ民事再生法の適用を申請