5月末の支払いが
とうとう資金不足に
事業を引き継いだ3社だが、FCNTは採算確保に苦慮する状態が続いていた。2021年3月期はグループ全体で当期純利益を計上したものの、携帯端末市場の成熟化や買い替えサイクルの長期化、またミドルローモデルのスマートフォンが増加するなかで販売単価も低下。経営状態の悪化は避けることができず、FCNTの業績悪化は顕著となっていた。
裁判所へ提出された申立書に記載されたFCNTの直近2023年3月期の業績を見ると、売上高こそ800億円台を確保したものの、売上総利益(以下、粗利)は前期から120億円以上減少し、経常損失106億円、当期純損失も95億円と赤字幅は前期から大幅に拡大していたことが分かる。
P&S事業においては海外からの仕入れが大半を占めていたところ、2022年度は円安が急速に進行したことで仕入れコストが大きく増加、さらに半導体不足による価格高騰が粗利を大幅に減少させ、グループ全体の資金繰りも急速に悪化することになったのである。

前述したLBOローンによって、REINOWAを主債務者とする借入金に対して、FCNTおよびJEMSの預金、売掛債権、棚卸し資産、不動産など保有資産には担保が設定されており、業績の悪化が顕著となるなかで金融機関から新規の資金調達は困難であった。
このため、取引先に対して支払い猶予を要請する一方、前払い金を受けるなどしてしのいでいたという。そこまで手元資金に余裕のない状態とあっては、法的整理によることなくスポンサーを得ることも難しく、思うように進まないまま、5月31日の支払い資金が不足する事態となっていた。
今回の民事再生法を前に、シニア向けSNSサービスなどの事業についてはスポンサー支援を得ることができたものの、それ以外の製造・販売事業などについてスポンサーが現れることはなかった。法的整理の申請後、Lenovo Group Limitedがサービス事業およびプロダクト事業についても支援する意向が示され、新生FCNT合同会社に事業が譲渡されることとなった。
円安の進行や半導体不足など予期せぬ事態が起きたことは事実であるが、大手スマホメーカーでさえ法的整理前にスポンサー選定がスムーズに進まなかったこの状況こそ、携帯端末メーカーとして生き残っていくことがいかに難しくなってきているかということを示しているのかもしれない。
2018年 1月、ポラリス・キャピタル・グループが富士通から携帯端末事業を譲り受け。REINOWAホールディングス設立。傘下にFCNT、JEMS2社
2021年 グループで当期純利益計上
2022年 円安、半導体不足などで業績大幅悪化
2023年 5月、FCNTなど3社が民事再生法の適用を申請