米国の血と税金に他国は“ただ乗り”?CEA委員長「グローバル公共財」論の2つの落とし穴Photo:PIXTA

米大統領経済諮問委員会のミラン委員長が、米国の安全保障や国際金融制度など「グローバル公共財」の費用分担を他国に求めた講演は、国際秩序の再設計に一石を投じる。ただ、米国は覇権システムから多大な利益を得る一方で、それを回収して国内で再分配するのに失敗していることが見過ごされている。問題の本質は、他国の費用分担ではない。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)

ミランCEA委員長
講演の二つの欠陥

 4月7日、米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長のスティーブン・ミランは、ハドソン研究所において講演を行い、米国が世界に供給する「グローバル公共財」―すなわち安全保障、国際金融システム、国際貿易体制―の三つの制度について、その費用を米国が一手に負担してきたと訴えた。

 ミランは、他国が米国の血と税金に「ただ乗り」していると主張し、負担の分担(Burden sharing)を求める。従来の持論を、CEA委員長として繰り返したのである。

 ハドソン講演のポイントは、以下の通りである。

・米国は、安全保障、ドル基軸の国際金融制度、自由貿易体制という三つの「グローバル公共財」を長年供給してきた。これらの制度の恩恵を他国が享受する一方で、その供給には、米国の兵士がリスクを負い、米国の納税者も負担するという、多大なコストを要している。

・米ドルが国際取引や準備資産として利用されることで、世界的にドル需要が構造的に高止まりし、為替は慢性的なドル高傾向となって、米国は恒常的な貿易収支赤字と産業空洞化に苦しんできた。他国は、通貨操作・不公正貿易・少ない防衛支出で恩恵を享受しながら、コストを分担していない。

・他国は、(1)米国の関税を受け入れる、(2)米国製品を購入する、(3)防衛支出を拡大し、米国から装備品を購入する、(4)米国への直接投資を行う、(5)必要に応じて米国によるグローバル公共財の供給への対価として、米財務省へ財政的拠出を行う、といった対応を取るべきだ。

・関税は歳入源であると同時に、他国がそのコストを負担する構造を持ち、米国の産業政策として機能し得る。

 このように、米国の税収、雇用、成長のために、他国の「ただ乗り」を終わらせる必要があるとミランは訴えた。この演説は、戦後、覇権国としてのグローバル公共財を供給してきた米国の役割の見直しという点で、大きな問題提起を含んでいる。

 しかし、ミランの議論には二つの重大な欠陥がある。

 第一に、彼はこれらの制度を「グローバル公共財」として、米国が一方的に他国に提供しているという側面ばかりを強調しているが、米国自身が、それらの制度から構造的にどれほどの利益を得ているかには、ほとんど触れていない。

 第二に、制度の正当性や持続可能性の鍵となる、米国内での再分配メカニズムの設計に対しては、全くの無関心である。だが実は、まさにこの再分配の不在こそが、米国がグローバル公共財の供給を持続的に担うことを困難にしている最大の政治的、経済的な要因なのである。

 次ページでは、その詳細を解説する。