――現在のフジHDについては、どのようにみられていますか。

Photo by Ayako Suga
藤野 フジHDの人たちと話すと、皆さん非常に明るく、会社への愛着も強い。そして、優れたクリエイターを尊重する文化が根付いています。フジ局内では、過去に成功体験を持つベテランプロデューサーと若手が一緒になって、ある意味ぐちゃぐちゃになりながらコンテンツを生み出している。日枝久元会長による長年の支配という側面はあったかもしれませんが、年長者から若手まで、分け隔てなく一体となって、活気あふれる雰囲気でモノ作りをするというカルチャーがある。
これが、コンプライアンスの観点から見ると、非常に悪い方向に作用してしまった部分があるのは事実です。しかし同時に、この自由闊達な雰囲気がフジHDの良さでもある。難しいのは、この良い部分と悪い部分が表裏一体となっている点なのです。
――改革はかなり難しそうですね。
藤野 ええ。特にコンプライアンスに関しては、専門的な知識を持つ人がしっかりと対応しなければなりません。清水社長もフジHDの生え抜きですから、やはり外部の視点を取り入れて改革を進める必要があるでしょう。
そもそも、フジHDが抱える問題の根底には、日本のメディア業界全体に共通する構造的な課題があるとも言えます。ただ、フジHDにおいて、その問題が特に顕著に表れてしまったということでしょう。
「たかが一企業」なんて言えない!?
フジHD大変身が日本復活の「起爆剤」となる可能性
――フジHD側とは、そういった提案について協議されているのですか?
藤野 清水社長とはお話しさせていただいています。個別の対話内容については、守秘義務もあり開示できませんが、そのような方向性で対話を進めているとだけ言っておきます。
――6月に開催されるフジHDの株主総会は、大きな注目を集めそうですね。
藤野 今回のフジHDの件は、非常に大きな“レバレッジ”が効いたイベントになると考えています。つまり、フジHDが変わることができれば、それは日本のメディア業界全体の変革に繋がる可能性がある。そして、“第三の権力”とも呼ばれるメディアが変われば、ひいては日本という国全体が、より魅力的な国になる可能性を秘めている。そうなれば、巡り巡って、私たちが運用する投信の価値向上にも繋がると信じています。
――「ひふみ投信」の成績は運用資産高が増加して以降、TOPIXを下回っています。ファンド規模が大きくなると、フジHDの大量保有のような、ある種大胆な投資戦略が必要になってくるのでしょうか?
藤野 フジHDへの投資は、私たちにとって一つの実験でもあります。ファンドの規模が大きくなることには、プラスの側面とマイナスの側面の両方があります。マイナス面は、小回りが利きにくくなり、機動的な売買が難しくなることです。一方でプラス面は、私たちの投資行動や存在そのものが、投資先企業の経営や、社会全体に対して、ポジティブな影響を与えられる可能性があるという点です。
私たちは、いわゆるアクティビスト(物言う株主)ではありません。投資先企業に対して、配当を無理に引上げろとか、事業を分離しろといった短期的な要求を突きつけるつもりはありません。むしろ、建設的な対話を強化し、長期的な視点で投資先企業の企業価値向上を支援していく。その結果として、ひふみ投信の成績が向上していくという好循環を目指しています。
※藤野氏の発言は特定の個別銘柄の推奨や運用ファンドへの組み入れを保証するものではない。
◆インタビュー前編はこちら
⇒アニメと牛丼が“日本株の希望”に? 米国株を捨てフジHDの株を買うワケ【藤野英人氏インタビュー・前編】